それこそ藍とはそこそこ長く付き合っているから、いわゆる情事というものは、高校生ながらに何度も経験してはいるけれど、それでも藍との行為に、慣れることはないのだろうと思う。


 藍はどう思っているかわからないけれど、少なくともあたしは藍との行為のたび、羞恥心、だとか、緊張、だとか、あるいは恍惚、だとかいった訳のわからない感情が湧き上がって、その中に深く沈み込んで、溺れて、もがき苦しむことになる。


 そんな状態にあたしを深く突き落とすのは藍の方で、けれどそこからあたしを掬い上げてくれるのも、藍だ。



「痛くない? 平気?」



 頭上から問いかけられた言葉に頷くと、藍の手にかかる力がぎゅう、と強くなる。

 痛くない? の答えはイエスだけど、平気? の答えはいつだってノーだ。


 できれば平静を保っていたい、とは思うけれど、藍は見かけによらず、行為中はあたしをめちゃくちゃに苛めたい、というタイプで、だからこうしているとき、あたしはいつもの、プライドの高い織方紬乃ではいられなくなる。


 藍は、人形みたいで近寄りがたい雰囲気のある、高嶺の花みたいな紬乃が、俺にだけ見せる余裕のなさが好き、っていうけれど、あたしだって、普段は完璧に「人当たりの良い人」として擬態している藍が、行為中に見せる意地の悪い顔つきが、どうしようもなく好き。


 今日も藍は、いつもみたいにあたしの弱い部分を責め立てて、過呼吸になるんじゃないかってくらい、あたしに休む暇を与えない。


 けれど、あたしの思考にはひとつ、陰が落ちている。



「ら、ん」

「どうした?」



 藍は動きを緩めて、あたしの顔を覗き込む。