あたしは基本的に藍のことを信頼している。だから藍が浮気をするとか、そういう心配は基本的にしていない。けれど、優しいが故にほかの女の子たちからしきりに言い寄られる藍を見ると、ちくり、と心臓に針を刺されたような気分になる。
そんなこと、藍には絶対に言えないけれど。
藍と一緒に階段を降りて、昇降口のところに差し掛かると、そこにはちょうど、靴を履き替える森田の姿があった。
さっき藍と廊下を歩いていた森田は、あたしと藍を見るや否や、
「あ、成田くんお疲れー」
と、高めのトーンでひとつ、藍に向かって言葉を放つ。
藍はそれに対して、お疲れー、と簡単な挨拶を交わす。森田はそれきり、またそっぽを向いて、軽い足取りで出て行ってしまった。
腹の底から、ふつふつと、怒りと嫌悪が入り混じったどす黒い感情が湧き上がってくる。
あたしの存在をまるでないものみたいに扱って、藍にだけお疲れ、だなんて挨拶をするところも、藍にだけあからさまに声のトーンが高くなるところも、全部、全部鬱陶しい。
あたしの方が見た目にも気を遣っているし、できるだけ藍の彼女として相応しくなれるよう、努力しているはずなのに。
どうして、どうして森田みたいな、日焼けした肌そのままの状態で、ろくに化粧もせず、制服のスカートの変なところに折り目がついてるような奴が、藍に簡単に近づけてしまうのだろう。
そう考えると、余計に嫌になってしまって、藍をあたしだけのものにしたくなって、あたしは珍しく、藍の指に自分から指を絡ませた。