千歳色は、毒そのものだった。
だけどあたしは、彼から与えられた毒を摂取して、丸ごと飲み込んだ。
彼の毒を、すべて吸い上げて、自分のものにしたの。
「紬乃、俺は、紬乃だけのものだよ」
あたしは、藍の言葉に頷いた。愛しい人。ずっと、何も知らないまま、あたしの隣にいて。
坂下ちゃんは、千歳色の家で見つかった。千歳色はそこで多分、捕まったんだと思う。
どうしてちゃんとしたことを知らないかって、そりゃあ、刑事さんがそこまで教えてくれなかったから、というわけで。
だけどきっと、痛い目に遭った坂下ちゃんはこれ以上、藍に手を出してこないだろうし、千歳色はきっと、行くべきところに行って、罪を償いはじめるんだろうと思う。
これで、あたしの障壁はなくなった。
あたしの障壁を取り除くのは、千歳色じゃなくて、あたし自身なのだ。
坂下ちゃんが見つかった、ということは、学校中で話題になったけれど、彼女がどこで見つかったのか、とか、その犯人が誰か、ということを知っているのは、あたしだけだった。
坂下ちゃん自身も、精神科に入院しているんだ。自分からペラペラと話し始めるとは思えない。
あたしはこの一連の出来事を、刑事さんにも、先生にも口止めされた。混乱を招くからって。
あたしにとっても、その方が都合が良かったから、誰にも話していない。
藍にはもう一つ、嘘をついた。
千歳色は、織方紬乃へのストーキングの疑いで、織方紬乃への接近禁止令が出され、転校することになった。
これで、完璧。千歳色が学校に来ないことと、坂下あかりの行方不明は、これで繋がることはない。
それぞれ、別件、ということにしているのだから。あたしも藍も、坂下ちゃんの一件とは、関係ないことになる。
千歳色とキスをしてしまった、という一点を隠すためだけの施策に、ここまでやるあたしは、多分、どこかおかしいんだと思う。
……何だか、疲れてしまった。
藍にもたれると、彼はすこし安心したように、あたしの肩を抱いた。
別に、どうだって良いのよ。藍がモテようが、モテまいが。
あたしから藍を奪うような真似をする女が、許せなかっただけで。
でもさ、わざわざまわりくどいことをしなくたって、藍って、あたしのことが好きだったみたい。
あたしの誤算は、たったそれだけ。