陽世が帰るために自分の鞄を持って、真昼もあたしの目の前の席から立ち上がったとき、あたしはちょうど、陽世が入ってくるときに開きっぱなしにされた扉から廊下を眺めていた。
そして悪い偶然か、その瞬間、扉のところを藍と森田が並んで通り過ぎるのが見えてしまった。
おおかた、ミーティングが終わって、そのまま一緒に教室に戻ってきたところなのだろう。
「……だる、」
2人に聞こえないくらいの声量でつぶやいたつもりだったのに、真昼はリュックを背負いながらあたしの言葉をちゃんと拾っていたみたいで、何がだるいのー、といってケラケラわらう。
「例のあの子? 私も今見えたよー」
「んー、別に」
「藍くんのこと早いとこ迎えに行きな? うちらは帰るし」
そういってにこにこ笑う真昼が、何のことかあまりよくわかっていない陽世を連れて教室から出て行った。
藍に早く会いたい、という気持ちは山々だけれど、また前みたいに藍を教室まで迎えに行って、森田と顔を合わせてしまうのは癪だし、それに、待ってるって伝えたのに自分から迎えに行っちゃうのは、余裕がないみたいで嫌。
結局あたしは真昼の言うことを聞かず、そのまま机に突っ伏しながら、メッセージの通知を眺めてはすぐ返信できそうなものを選んで、つらつらと文字を打ち込んでいった。
そうしているうちに、廊下の方から人の気配を感じて、藍かな、と思うと同時に、紬乃、と愛しい声があたしの名前を呼んだ。
「ごめん、待たせた」
藍がいつにもなく申し訳なさそうな顔をするものだから、さっきまで真昼たちがいたから平気だよ、といって、あたしはその場から立ち上がった。
返信途中のメッセージは一旦後回しにして、藍のところに駆け寄る。