吾妻を倒した後ではあるけど、援軍のネットの民が倉庫街へと押し寄せた。援軍の人々はそんなにケンカに慣れているようには見えなかったけど、それでも助けに来てくれたことは嬉しかった。中には公開スパーに突撃してきた人たちもいた。

「まあ、ホラ、あれだ。ジャンプのマンガって敵が味方に変わったりもするだろ?」

 ぶーちんと呼ばれていた男性が言う。

 公開スパーリングでボコった彼は、前と違って敵対的な態度ではなく、どこか照れくさそうだった。

 彼のジャンプのマンガがどうこうっていう理論はよく分からないけど、助けに来てくれたのは単純に嬉しかった。

「こいつ、あれ以来由奈ちゃんのファンになってしまいまして、今回の援軍もこいつが率先して人を集めたんですよ」
「バカ、それは言うなって!」

 前にも見たぶーちんの友人が言うと、その発言をたしなめられた。

「まあとにかく、今は味方ってことだ。そういうことでよろしく」

 突然のキャラ変更に思わず笑ってしまう。根はいい奴なのかもしれない。

 のちに警察が到着して、吾妻を含め倒された半グレたちと一緒に警察へとしょっ引かれて行った。一般人の喉元にナイフを突きつけて殺害予告までしたので、実刑はおそらく免れないんじゃないかなとも思う。

 とにかく、雨降って地固まるというか、一時期は誹謗中傷で敵だらけになりかけたあたしも、ひょんなきっかけで奇妙な仲間を手に入れ、前より一層強大な力を持つようになった。

「それじゃあ、私も帰るかね」

 落ち着いた頃に天城がふと口を開く。

 前世では互いに男で、世界戦まで殴り合いを続けた仲だ。ここまで来ると、因縁とはまた違う何かを感じる。

 せめてお礼ぐらいは言っておこう。

「今日は助けてくれてありがとう」
「いいよ別に。あなたがいなくなったら、私の相手になる選手なんて存在しなくなっちゃうからね。運命の女神とやらも完璧じゃないみたいね」

 二人で「ふふ」と笑う。

「それじゃあ、また。元気でね」
「あなたもね。次は負けないから」

 彼女の言う次とは、おそらく国体のことを指すのだろう。

 アマチュアボクシングには大きな大会が複数ある。あたしはその内の一つであるインターハイで天城に勝っただけに過ぎない。

 次に会う時は、彼女はさらに強くなって帰って来るだろう。結局はその繰り返しなのだ。

 はじめに女子として生まれ変わった時はどうしようかと思ったけど、ようやくこの人生でもうまく生きていけそうな気がする。

 菜々さんとの関係やら彼女のケアも含めて問題もたくさんあるけど、それでも前向きに生きていけば何とかなるでしょ。

 どんな人生であれ、生きていればビックリするほど滅茶苦茶なことばかりが起こる気もするけど、それでも仲間と一緒なら何とかなる気がした。うん、自分で言っていてしっくりきたけど、今のあたしには前世に負けないぐらい素晴らしい仲間がいるんだ。

 菜々さんと目が合う。可能な限り、最大限の笑顔を返した。

 過去には戻れない。結局、今を生きていくしかないのだ。

 だから生きていこう。

 誰に言われるでもなく、自分の意志で、有意義に。

 この世界がどれだけクソみたいに見えても、生き続けていれば、その先に光はある。

 あたしは今生きている世界を愛そうと思った。

   【了】