オリンピックに出る。

 そう決めたあたしは、この大会ですべての試合をKOで終わらせてやろうと誓った。

 決断すると早いのか、準々決勝の相手はクジ運の良いシード扱いの選手だったけど、なんら問題なく勝つことが出来た。

 高速で相手を中心に旋回しながら、左を早いテンポで突きまくった。おおよそすべてのパンチが当たったところで、審判席のジュリーと呼ばれる偉い人から試合を止めるよう指示があってそのままストップ。それであっけなく試合終了となった。

 相手は立っていたけど、あまりに試合が一方的過ぎたので早々に止めることにしていたみたい。昨日の試合で担架が出たのもあるんだと思う。

 どうあれ、2回戦目もあたしはストップ勝ちに終わった。

 宿舎に帰ると、ネットではあたしの試合がまた話題になっていた。

 おそらく観客が撮影したもので、最初の試合が「閲覧注意」の文言とともに公開されている。

 他の部員がリングの下から撮った映像はあったけど、上のフロアから俯瞰(ふかん)して撮った動画はなかったので、自分の反省材料としての意味合いも兼ねて閲覧した。

 動画の横にはコメントが流れていた。動画の流れる時間とリンクしていて、色んな人と一緒に動画を見ている感覚が得られる機能のようだ。

 はじめにヤンキーのフルスイングに右ストレートのカウンターを合わせたシーンが映る。試合中には前のめりに転んだようにも見えるダウンだったけど、いざ上からの視点で映像を見ると、ヤンキーの相手が最初のダウンでグニャっと崩れ落ちているように見える。

 コメント欄を見ると、全体的にドン引きだった。


「え?続けるの?」
「これ、レフリーあかんやろ」
「攻撃力が違い杉」
「とめてとめてー!」
「これは危険過ぎる。抗議文書を送ろう」
「これでさらに殺しにいく由奈ちゃん鬼すぐるwwwww」


 他にも色々流れていたけど、気分が悪くなりそうだったのでコメントを非表示にした。見なかったことにしよう。

 ヤンキーがなんとか立って、すぐにあたしの左フックで倒され大の字になる。

 すると、熱狂というよりは「うわー」っていう感じのコメントがまた流れてくる。変なところを押したのか、全画面表示にして見えなくしたはずのコメントがゴシック体の白い字で画面を流れていく。なんだか、すごく悪いことをしているかのように感じた。

 これ以上見ていると気分が悪くなりそうなので、閲覧はやめた。

 一応、生物的にはズルをしていない。

 なんだけど、どうしようもない部分を批判されているような感じがして、なんか嫌だった。

 絶対にありえないけど、あたしが転生したボクサーだって知れ渡ったらやはり炎上するんだろうか?

 それは嫌だな。

 だって、どちらにしても男子とは試合出来ないじゃん。

 ……いかん。士気が削り取られている。

 とりあえず今は目の前にある試合へ集中しよう。

 ネットの誹謗中傷で傷付いている場合じゃない。

 敵はネットじゃなくて、リングにいるんだから。