「楽勝だったな」

 引き返す際に佐竹先生が口を開く。

「まあ、そりゃあ……」

 あたし、少し前までジャック・ザ・リッパーって呼ばれていましたからね、とは言わない。

 肉体が変わろうが、魂に刻まれた技術は死なない。それをそのまま体現したかのような試合になった。

「私の強さはこんなもんじゃないってか。頼もしいな、おい」

 勝手に都合のよい勘違いをしてくれた佐竹先生が、あたしの背中をバンと叩く。

「ちょ、痛いですって」
「お前、やっぱり天才だわ。オリンピック目指せよ」

 佐竹先生は割とマジなトーンで言う。

 オリンピックって言ったら前世でも行けなかった魔窟みたいな大会だけど、今の状態ならたしかにそれほど夢でもない気がする。

 女子ボクシング……なんかオリンピックで性別問題があったから複雑な思いも出てくるけど、少なくともあたしは生物的な違反はない……はず。そう考えると、オリンピックで金メダルを目指すチャレンジもいいかな、なんて思ってしまう。例の金メダリストと闘ってやろうか。

 テンションの上がってきたあたしは、佐竹先生の呼びかけに答える。

「はい。でもまずはインターハイ優勝が目標なので、それまでは試合に集中したいと思います」
「よし。その意気だ。絶対に優勝するぞ」
「はい!」

 そうか、オリンピックか。

 それはなかなか楽しみな目標が出来たな。

 新たな目標が出来て、あたしの情熱はまた燃え上がった。