「ここ、どこだ……?」
光溢れる空間。不自然なまでに通路や壁が光っており、その光景に圧倒される。
俺は、ボクシングの世界戦に出場するはずだった。
会場へ向かう前に散歩をしていて、信号を渡っている時にトラックが突っ込んできて……。
――もしかして、俺、死んだ?
「はいはい、リュウ君こっちですよ~」
俺の思考を遮るように、光溢れる空間に間延びした声が響く。
眩しさに目を細めながら声の方を見やると、金髪をクルクル巻いたギリシャ神話風のギャルがいた。
「なんだ君は」
「なんだ君は? ってか。そうです、あたしが運命の女神ってやつです」
「そうか。じゃあな」
――こいつ、ヤバい奴だ。
すぐに危険を察知した俺はその場を後にする。
「ちょ、待ちなさいよ」
背を向けた俺に、自称女神はいくらか悲壮感のある声を浴びせる。
「なんだよ」
いくらか呆れ気味に言うと、自称女神は事情を話しはじめた。
「君はね、死んでしまったの?」
「はあ……そうか。……え?」
いや、現に俺、生きてるやん。
そう思ったところに、心でも読んでいるのか、いくらかドヤ顔になった女神が答える。
「そうだよね。いきなり『君は死にました』って言われても『はいそうですか』とはならないもんね。
女神はそのまま続ける。
「君はボクシングの世界戦を前にして、散歩中にトラックに轢かれて死んじゃったの」
「トラックにって……」
まるでどこかの異世界転生みたいだな、と思った。小説は読まないが、それぐらいは知っている。
「そう。あたしは転生を司る、運命の女神ってやつ。こう見えても、偉いんだよ?」
そう言ってギリシャ風ドレスの裾をつまんで小首をかしげる。どう見てもコスプレ好きのギャルにしか見えないが、たしかに意識を失う前にトラックが迫っていたのは憶えている。その後を思い出そうとすると、ふいに頭痛が襲ってくる。
どうやらこの女神様とやらの言うことは本当みたいだった。
「俺は、死んだのか?」
「そう。残念ながら」
女神は表情を変えなかったが、その目にはいくらかの哀れみがこもっていた。
そうか、どうやら俺は本当に死んでしまったようだ。無茶苦茶な話に聞こえなくもないが、どこか腑に落ちた部分があった。
困ったな。恋人の菜々には世界王者になってからリング上でプロポーズするはずだったのに。
菜々はどうすんだ。
あいつも結婚が目前だったことぐらいは分かっていたはずだ。俺みたいなアホじゃないからな。
まずいな。彼女を置いて死んでしまった。
「そう、菜々ちゃんがかわいそうだよね」
女神がわざとらしく涙を拭う仕草をする。軽くイラく。
どついたろかと思っていると、女神がふいに口を開きはじめる。
「そんなあなたにチャンスをあげます」
「チャンス?」
彼女の思考が読めず、間抜けなオウム返しをしてしまう。
「あなたは生きている間、本当に頑張っていたと思います。努力だって誰よりもしてきた」
「そりゃあ、勝つために努力するのは当然だろうな」
「素晴らしい!」
いきなりでかい声で賞賛されたので驚いた。
いよいよこいつヤベーなと思っていたら、女神がまた口を開く。
「そんなあなたには、ご褒美として人生をやり直すチャンスをあげます」
「はあ……」
一方的にテンションの高い女神についていけない。
「あなたに生まれ変わるチャンスを上げます。あたしはカワイイ専門だから、あなたを女の子に転生させることしか出来ません」
「ああ、そうですか(棒読み)」
「次のうち、どっちになりたいですか? 一つ、西欧諸国に生まれた超絶美少女の王族。もう一つは、アイドル並みにかわいい美少女JK」
……なんだそれ。
生まれ変わるって、そんな簡単に人生がやり直せたら苦労はないわ。
そんな俺の思考とは裏腹に、女神はどこかから出した王女風の美少女とJKの顔が映ったパネルを持って小首をかしげている。
「……じゃあ、美少女JKの方で」
正直なところ、もう面倒臭くなっていた。
女神ギャルの話はあまりにも現実感がないので、もしかしたら俺は催眠状態で変な儀式か自己啓発セミナーにでも参加させられているんだろうかという気分になってきた。それでも王族よりは普通のJKの方が気楽そうに見えたので、美少女JKの方を選んだ。
高貴さからは程遠い俺が、万が一にでも王族になんかなったら毎日が地獄だろう。だから美少女JKは消去法で行き着いただけだ。
「嗚呼、華のJKを選んだんですね! 素晴らしいっ!」
俺の気持ちも知らず、女神は異常なテンションで俺を称える。こいつ、クスリでもやってんのか。
「それじゃあ君を超絶カワイイ美少女JKにして転生させるからね。次の人生で、絶対に幸せになってね」
「はいはい(雑)」
女神が変な杖を天にかざすと、周囲にさらなる光が溢れる。
詐欺にしてはずいぶんと大がかりな仕掛けを使っている気がするけど、これってどこかのテレビが仕掛けたドッキリか何かだろうか?
いや、今どきはコンプラがどうとかですぐクレームが付くからな。とすると、これは一体何なんだろう……?
強い光の中で一人疑問をこねくり回す俺の意識は、知らぬ間に途切れていた。
光溢れる空間。不自然なまでに通路や壁が光っており、その光景に圧倒される。
俺は、ボクシングの世界戦に出場するはずだった。
会場へ向かう前に散歩をしていて、信号を渡っている時にトラックが突っ込んできて……。
――もしかして、俺、死んだ?
「はいはい、リュウ君こっちですよ~」
俺の思考を遮るように、光溢れる空間に間延びした声が響く。
眩しさに目を細めながら声の方を見やると、金髪をクルクル巻いたギリシャ神話風のギャルがいた。
「なんだ君は」
「なんだ君は? ってか。そうです、あたしが運命の女神ってやつです」
「そうか。じゃあな」
――こいつ、ヤバい奴だ。
すぐに危険を察知した俺はその場を後にする。
「ちょ、待ちなさいよ」
背を向けた俺に、自称女神はいくらか悲壮感のある声を浴びせる。
「なんだよ」
いくらか呆れ気味に言うと、自称女神は事情を話しはじめた。
「君はね、死んでしまったの?」
「はあ……そうか。……え?」
いや、現に俺、生きてるやん。
そう思ったところに、心でも読んでいるのか、いくらかドヤ顔になった女神が答える。
「そうだよね。いきなり『君は死にました』って言われても『はいそうですか』とはならないもんね。
女神はそのまま続ける。
「君はボクシングの世界戦を前にして、散歩中にトラックに轢かれて死んじゃったの」
「トラックにって……」
まるでどこかの異世界転生みたいだな、と思った。小説は読まないが、それぐらいは知っている。
「そう。あたしは転生を司る、運命の女神ってやつ。こう見えても、偉いんだよ?」
そう言ってギリシャ風ドレスの裾をつまんで小首をかしげる。どう見てもコスプレ好きのギャルにしか見えないが、たしかに意識を失う前にトラックが迫っていたのは憶えている。その後を思い出そうとすると、ふいに頭痛が襲ってくる。
どうやらこの女神様とやらの言うことは本当みたいだった。
「俺は、死んだのか?」
「そう。残念ながら」
女神は表情を変えなかったが、その目にはいくらかの哀れみがこもっていた。
そうか、どうやら俺は本当に死んでしまったようだ。無茶苦茶な話に聞こえなくもないが、どこか腑に落ちた部分があった。
困ったな。恋人の菜々には世界王者になってからリング上でプロポーズするはずだったのに。
菜々はどうすんだ。
あいつも結婚が目前だったことぐらいは分かっていたはずだ。俺みたいなアホじゃないからな。
まずいな。彼女を置いて死んでしまった。
「そう、菜々ちゃんがかわいそうだよね」
女神がわざとらしく涙を拭う仕草をする。軽くイラく。
どついたろかと思っていると、女神がふいに口を開きはじめる。
「そんなあなたにチャンスをあげます」
「チャンス?」
彼女の思考が読めず、間抜けなオウム返しをしてしまう。
「あなたは生きている間、本当に頑張っていたと思います。努力だって誰よりもしてきた」
「そりゃあ、勝つために努力するのは当然だろうな」
「素晴らしい!」
いきなりでかい声で賞賛されたので驚いた。
いよいよこいつヤベーなと思っていたら、女神がまた口を開く。
「そんなあなたには、ご褒美として人生をやり直すチャンスをあげます」
「はあ……」
一方的にテンションの高い女神についていけない。
「あなたに生まれ変わるチャンスを上げます。あたしはカワイイ専門だから、あなたを女の子に転生させることしか出来ません」
「ああ、そうですか(棒読み)」
「次のうち、どっちになりたいですか? 一つ、西欧諸国に生まれた超絶美少女の王族。もう一つは、アイドル並みにかわいい美少女JK」
……なんだそれ。
生まれ変わるって、そんな簡単に人生がやり直せたら苦労はないわ。
そんな俺の思考とは裏腹に、女神はどこかから出した王女風の美少女とJKの顔が映ったパネルを持って小首をかしげている。
「……じゃあ、美少女JKの方で」
正直なところ、もう面倒臭くなっていた。
女神ギャルの話はあまりにも現実感がないので、もしかしたら俺は催眠状態で変な儀式か自己啓発セミナーにでも参加させられているんだろうかという気分になってきた。それでも王族よりは普通のJKの方が気楽そうに見えたので、美少女JKの方を選んだ。
高貴さからは程遠い俺が、万が一にでも王族になんかなったら毎日が地獄だろう。だから美少女JKは消去法で行き着いただけだ。
「嗚呼、華のJKを選んだんですね! 素晴らしいっ!」
俺の気持ちも知らず、女神は異常なテンションで俺を称える。こいつ、クスリでもやってんのか。
「それじゃあ君を超絶カワイイ美少女JKにして転生させるからね。次の人生で、絶対に幸せになってね」
「はいはい(雑)」
女神が変な杖を天にかざすと、周囲にさらなる光が溢れる。
詐欺にしてはずいぶんと大がかりな仕掛けを使っている気がするけど、これってどこかのテレビが仕掛けたドッキリか何かだろうか?
いや、今どきはコンプラがどうとかですぐクレームが付くからな。とすると、これは一体何なんだろう……?
強い光の中で一人疑問をこねくり回す俺の意識は、知らぬ間に途切れていた。