沙羅は、術を使って出口を探していた。

「近くに術師の気配がする」

そこまで歩いていくと、話し声が聞こえてきた。

「いないね。羅衣」

「全く。ここどこなのよ…」

「日和、若葉!」

沙羅は二人の元に駆け寄った。

「沙羅⁈なんでこんなところにいるの?」

日和が驚いた顔をした。

「色々あって…二人はなんでここに?」

「それが…酒呑童子が屋敷に来たの」

「え?」

「いきなり地面に穴が現れて、気づいたらここにいた」

日和と若葉がそう説明した。

「沙羅は、なんでこんなことになったかわからない?」

若葉に聞かれ、沙羅は言葉に詰まった。

「それは…」

もしかしたら、葵が何かしたのかもしれない。

沙羅はそう思った。


琉晴と葵は、話を続けていた。

「葵、なんで酒呑童子と一緒にいるんだ?玄武はどこにいる?」

「今は玄武はいないよ。別のにいる」

「その代わりにそいつといるのか。おい。お前の目的はなんだ?」

琉晴は酒呑童子に尋ねた。

「私の目的はこの娘に協力することだ。目覚めた時、そう契約したからな」

「目覚めた?契約?」

「今から七年前、兄さんの病気が悪化して入院した時、私は兄さんの代わりに、当主としての教育を受けることになった。男として振る舞うように言われた。その時、酒呑童子と会った」

「七年前…」



七年前。

「え?充の具合が?」

その日、琉晴は充が入院したことを知った。

(まさか…あのせいで…?)

何日か前に、川で溺れている子供を助けた。

そのせいで、体調を崩してしまったのだろうか? 

充は小さい頃から気管支が弱く、入退院を繰り返していた。

当主の仕事も、養子である葵にするという話まで出ている。

(よくあの母親が葵を当主にすることを許したな)

葵は玄道家の子供ではなく、琉晴と充が連れてきた子だ。

育ての親が亡くなったので、充の家で引き取ることになったのだ。

「だからって、男の格好をさせて、充の名前を使って入学させるなんてな…」

葵のことを知っているのはあの学校にはいないので、大丈夫だとは思うが…

「葵」

「琉晴!」

入学前に、一度葵に会いに行った。

葵は、他の女子より背が高く、少し声が低かった。

長い髪を切った今は、ますます少年のようだ。

「制服着てみたんだけど、どうかな?似合ってる?」

男子用の制服を着た葵が言った。

「似合ってるよ」

「本当?」

葵が嬉しそうに笑った。