「思い出した?」

葵は琉晴に尋ねた。

「お前…帝の…だったらどうしてそいつと一緒にいるんだ?そいつはお前のことを…」

琉晴は酒呑童子を見て言った。

「あの時、あなたがあの場を離れて結界が解けたの。そして屋敷の中に酒呑童子がやってきた」

「俺は…あの時…」



「春香ちゃん、大丈夫か?」

渚が後ろを歩いている春香に聞いた。

「はい。大丈夫です」

そう言っている春香の顔は真っ青だった。

「ところで、お前はなんで本条と一緒にいるんだ?湊はどうした?」

慧が春香の後ろを歩く鵺に言った。

「湊とは別行動だ。この娘の護衛を頼まれた」

その時、

「うわっ!」

「湊⁈」

突然、湊が目の前に現れた。

「姉さん?高嶺先生と本条さんも…」

「どうやってここにきた?」

渚が湊に尋ねた。

「琉晴さんにみんなと合流するように言われて…神木を通って来たんだ」

湊が幹に手を当てて言った。

「じゃあ、ここを通れば戻れるんだな」

しかし湊は難しい顔になった。

「俺は琉晴さんの術でここに来たから、帰り方まではわからないんだ」

「そうか…」

後ろで鵺の声がした。

「おい!しっかりしろ」

春香が気を失っていた。

「本条さん!」

湊が駆け寄った。

「さっき香水の匂いを嗅いだら私たちは気を失ったんだ。みんな目を覚ましたんだが、春香ちゃんはずっと顔色が悪くてな…」

「香水?」

「柏木が花屋でもらった香水と似ていた。もしかしたらそのせいかもしれない」

それを聞いた湊は目を見開いた。

「あの香水と似たものが?姉さんと高嶺先生はどんな夢を見たんですか?」

「私は…琉晴が出てきたな。今とは少し幼いくらいの」

「俺は…前世の、記憶だった」

「前世の?」

慧は頷いた。

「まだ彩葉たちが生まれる前のものだったと思う」

「本条さんは、よほどショックを受ける夢を見たのかな。その夢の内容がわかればいいんだけど…」

「でも今はここから出ることのほうが先だ」

慧が言って、再び護符を追った。



真白と千輝はヤマトタケルと話を続けていた。

「!」

「どうしたの?」

「話の途中だが、ここを早く出たほうがよさそうだ。かくりよは明け方までには現世を行き来する出口が塞がってしまう」

「そんな!」

「早く橋を…」

千輝に言われた真白は、走り出そうとした。

「待て」

ヤマトタケルに腕を掴まれた。

「他にも人間の気配がする。お前たちと同じ、何か力を持っている人間だ」