不思議なことに、渚は晶と結婚してから、昔のことがあまり思い出せなくなっていた。

まるで頭に靄がかかったように、ぼんやりとしているのだ。

(私に、何か隠したいことでもあるのか?…だが、私も人のことは言えないな)

渚にも、人に知られてはならないことがあったからだ。

「もういいですか?俺は用事があるので」

話を終えた琉晴が渚の方に歩いてくる。

(まずい…!)

そのことに気づくのが遅れてしまった。

見つかってしまう…!と思ったが、琉晴は渚をすり抜けて行ってしまったのだ。

「私が見えていないのか?」

さっきも、玄関に入ろうと戸を開けようとしたがすり抜けてしまった。

「そういえば、琉晴の顔が少し幼いな…」

雰囲気はあまり変わっていないが、少し幼さが残っていた。

(ここは過去の世界なのか?)

そんな考えが頭をよぎった。

「あとをついて行ってみるか」

渚は、琉晴を追いかけた。