「行ったか?」

慧と渚は百鬼夜行が通り過ぎるまで隠れていた。

「もう大丈夫そうだな」

通り過ぎたのを確認し、立ち上がった。

「出口を探すか」

再び慧と渚は道を進んだ。

しばらく歩いていると、前方から誰か歩いてくるのが見えた。

二人が身構えていると聞き覚えのある声が聞こえた。

「高嶺先生?渚さん?」

そこにいたのは、春香と鵺だった。

「本条、なんでこんなところに…」

「気がついたらここにいました。真白を探してたんですけど…」

慧は、鵺に目を向けた。

「そいつがいるってことは、湊もどこかにいるのか?」

「いえ、こっちにいるのは鵺だけで、湊さんは別のところにいるみたいです」

「そうか…」

カタン。

何かが落ちた音が聞こえた。

「これは…」

それは小さな小瓶だった。

中には何か液体が入っている。

「香水か?」

渚がそれを拾い上げた。

「まさか…その香水は…!」

慧が言い終わる前に、渚の手から、小瓶が弾け飛んだ。

「っ!」

地面に落ちた衝撃で小瓶が割れた。

辺りには甘い香りが漂った。

その香りを嗅いだ途端、強烈な眠気に襲われた。


「ん…」

渚は、ゆっくりと目を開けた。

「ここは…」

どうやら神宮家の屋敷の前のようだ。

「戻ってこられたのか?」

立ち上がって、玄関の戸を開けようとしたが、すり抜けてしまった。

「…なんだ?」

よく見ると、体が透けていた。

渚がよくわからずにいると、庭の方から声が聞こえてきた。

「琉晴!待ちなさい!」

(この声は…琉晴の母親か?)

渚は庭の方にまわり見つからないように顔を覗かせた。

庭では琉晴と、琉晴の母親が言い争っていた。

「昨日はどこにいたの?術の稽古もしないで」

「充のお見舞いです。体調が優れないと聞いていたので」

「あぁ、そう…」

どこか気まずそうに母親が言った。

「玄道の家で女の子を養子に迎えたようだけど、充くんのかわりにするつもりかしらね」

(養子…?)

それを聞いた渚は困惑した。

玄道家に養子がいることなど知らなかったからだ。

「確か名前は、葵ちゃんと言ったかしら?」


(どういうことだ?充は今だって元気にしているじゃないか。…それとも、誰かが充になりすましているのか?)

渚は玄道家とはあまり関わりはなかったが、晶から話は聞いていた。

玄道家には病弱の一人息子がいると。

(いや、待てよ…その後に何か重要なことを聞いたはずだ)