天音の表情が固くなった。

「うん。お母さんともちゃんと話したい。でももう少し時間がかかるかも」

天音の父親の表情が柔らかくなった。

「帰ってきたいと思った時に帰ってきてくれればいい。待ってるから」


父親を見送り、天音はカフェを出た。

外には満開の桜の木があった。

琴音(ことね)にあげた鞠も桜の模様があったな…」

そんなことを思っていると、近くの公園でバスケをしている女の子たちがいた。

「バスケ…」

天音も琴音が亡くなる前は、バスケをやっていた。

「天音?」

顔を向けると、紫音が立っていた。

「何してるんだ?こんなところで」

「えっと、お父さんと会ってきたの。その帰り」

「そうか」

紫音が公園に目を向けた。

「バスケ、やりたいのか?」

天音がじっと見ていたことに気づいたのだろう。

「別に…」

天音は目を逸らした。

「でもいつもバスケ部の練習してるところ見てたりするよな。興味があるんならやってみればいいのに」

「そんなでもないから…」

(本当はまたやってみたいけど、琴音のことを思い出しちゃって、うまくできない…)

琴音が亡くなった直後に、全国大会の試合があったが、天音がミスをして負けてしまった。

それ以降、思ったようなプレーができなくなり、やめてしまった。

部活も今は何もやっていない。

「そうなのか?天音って本当にやりたいことはあんまり口に出さないよな」

「え?」

「花蓮とか結奈よりは、よく話す方だとは思ってるけど、本当に自分のやりたいこととか言いたいことはなかなか口に出さなかったり、誤魔化したりしてないかなって思って」

紫音は昔から人のことをよく見ているなと天音は感じていた。

花蓮が桜咲家にやってきたときに、声が出せないと知っていても紫音は進んで声をかけていた。

そして徐々に花蓮は声が出せるようになっていった。

今では、問題なく話すことができている。

「花蓮が声を出せなくなってた時、進んで話しかけてたのはどうして?」

紫音は、突然の質問に驚いていたが答えてくれた。


「だって、ずっと話さないままでいたら、どんどん話せなくなるだろ?何かのきっかけで声が出たり、話せるようになるかもしれないと思ったからだ」

天音は、花蓮にどうやって接したらいいのか分からず、なかなか話しかけることができなかった。

「やっぱり、紫音はすごいね。ちゃんと行動を起こせて」

「なんだ?急に」

「なんでもない」

(それが、私が紫音を好きになった理由なんだけどね)