床に転がっているボールを拾いあげた。

(私が乗り越えなきゃいけないこと…それは過去と向き合うこと)

羅衣にそう言われた。

それが力を発揮できない理由だと。

(ならまずは、できることからしていかないと)


花蓮は、部屋で横になっていた。

(私は、霊力のコントロールがあまりできていないって言われたんだよね)

若葉に稽古が終わった後に言われたのがそれだった。

それは、心が乱れているからだと。

「なんで心が乱れてるんだろう?」

花蓮には、なぜそんなことを言われたのか、わからなかった。

「私の使っているのは、弓矢…弓道の練習をするれば何かわかるかも」

花蓮は起き上がって学校に向かった。


紫音は、公園の日陰のあたりで素振りの練習をしていた。

「持ち方はこれであってるはず…」

竹刀と刀とでは、重さも違うため、刀を持つ時には力が必要になる。

「あとは心の問題って言ってたよな…」

充から言われたのは、それだけだった。

「紫音」

誰かに名前を呼ばれた。

「花蓮」

花蓮が公園の前を通りかかった。

「何してるの?」

「素振りの練習。たまには気分転換に違う場所でやろうと思って」

「そうなんだ。私、これから学校に行くところなの」

「何か用事か?」

「弓道の練習しようと思って。じゃあまたね」

そう言って、花蓮は歩いて行った。

「花蓮にいつ言えばいいんだ…」

告白するのも、タイミングを逃してばかりいてなかなか言い出せていなかった。

「それもちゃんと考えないとな」


要は、母親が入院している病院までやってきた。

「すみません。母に面会に来たのですが…」

受付の人にそう告げた。

「お名前を伺ってもいいですか?」

「神崎要です」

「少々お待ちください」

要が名前を言うと、どこかに電話し始めた。

「申し訳ございません。面会はできないそうです」

「そうですか…ありがとうございます」

要は諦めて病院を後にした。

(やっぱりそうなるよな)

ダメ元で来ては見たものの、やはりそう簡単に会わせてはもらえない。

母に会えば、過去のトラウマを見つけるヒントになるかもしれないと思った。

「なら他に、何をすればいいんだ」


隼人は、息苦しさで目を覚ました。

「また、あの夢か…」

最近、夜叉(やしゃ)だった時の記憶を頻繁にに夢で見るようになった。

「今と、何か関係があるのか?」

この間、夏樹に言われたことは、過去に囚われ過ぎている、と言うことだった。

「夜叉だった頃の俺に囚われているってことか…」

隼人は気晴らしに散歩に行くことにした。

「暑いな…」

外に出ると、強い日差しが照りつけた。

「早く早く!」

前の方から、中学生くらいの女の子が走ってきた。

隼人は危うくぶつかりそうになった。