真白は、男性があの時言い残した言葉が気にかかっていた。

「俺が分かるのはそれくらいだけど、ほかにも何か気になることはある?」

「あとは大丈夫です」

「そっか。ならこの間の話の続きをしても大丈夫かな?」

「はい。教えてください」



職員室では、慧と千輝が仕事をしていた。

「高嶺先生、これ、お願いしますね」

「ああ、そこに置いてくれるか?」

慧は、パソコンの画面を見たまま答えた。

千輝は、印刷したプリントの束を慧の机に置いた。

「暑いですね。こんな中生徒たちは、外で部活をしてる子達もいるんですもんね」

「俺たちはまだいい方だぞ。顧問の先生も同じことをしているんだから」

「でもそのおかげで、いろんな雑用言いつけられましたね」

夏休み中は、普段できない事務作業を行なったりもしているので、ディスクワークがほとんどだ。

「ちょっと、美術部の方に顔出してきますねー」

他の教師がそう言って、職員室を出て行った。

職員室には、慧と千輝だけが残された。

「ところで、この間の神宮家の集まり、予定とはだいぶ違ったみたいですね」

「そうだな。神宮家の次期当主が単独で判断したらしい」

「なぜそんなことをしたのでしょう?」

「さぁな。あの人はもともと、気まぐれなところがあるらしいからな。でも、それだけであんな大人数の人を帰らせたりは普通はしないだろう」

千輝は、何か胸騒ぎがした。


美術室では結奈が絵を描いていた。

(私の力がコントロールできてない理由は、自分の心にあるから、か)

この間、日和に教えてもらった時にそういわれた。

(私、気がかりなことでもあるのかな…)

「お母さんのことはもちろん心配だけど、それではない気がする…」

では、他に何かあるとすれば…

(要…)

結奈はまだ、要のことが気になっていた。

青野(あおの)さん、どれくらい進んだ?」

美術部の顧問の先生がやってきた。

先生は結奈の近くにきて、キャンバスを覗き込んだ。

「綺麗な景色ね。これはどこを描いたの?」

「私の、思い出の場所です」

キャンバスに描かれていたのは、花火が上がっている夜景の絵だ。

「これなら、コンクールで賞も狙えるかもしれないわね」

「本当ですか?」

「ええ。私は好きよ。この絵」




天音は、誰もいない体育館で、バスケットボールを持っていた。

数回、床でバウンドさせて、そのままゴールに向かって走った。


ゴールの手前まで来ると、そのままシュートを決める。

「久しぶりにボール持ったけど、思ったほどなまってなくてよかった」