渚と晶は、神宮家の屋敷に戻ってきた。

琉晴と湊がいる部屋に行く途中で、晶の母親に会った。

「母さん、父さんの具合はどう?」

「今日は体調がいいみたい。顔色も良かったし」

(晶たちは、当主が偽物だと知らないのか…)

「そうねぇ…前よりはだいぶいいけど」

頬に手を当てて、晶の母親は言った。

「琉晴に会うなら、もう少ししっかりするように言ってくれない?あの子、高校に入る前はしっかりしてたのに、いきなりどうしちゃったのかしら」

はぁ、とため息をついた。

「今回のことも一人で決めたみたいだし…当主になる自覚を少しは持ってもらいたいわね」

そう言い残して、歩いて行った。

晶はその後ろ姿を見つめていた。

母親の姿が見えなくなって、つぶやいた。

「…兄さん、父さんが元気な時は真面目だったのに」

渚は、詳しいことはし知らないが、琉晴の幼少期を知っている者たちからは前は真面目で、周りから頼りにされていたらしい。

(ちょうど当主の体調が優れなくなっていた時と重なるな)


真白たちは、沙羅から引き続き話を聞いていた。

「私が知っているのは、帝に仕えていた術者と退魔師なんだけど、ある時を境に資料がごっそり抜けてるの」

「ある時っていつ頃ですか?」

寿人(ひさひと)という術師のいた時代に、いろいろなことが起こっているわ」

(やっぱり…)

真白は心の中でつぶやいた。

「これは、その一部なんだけど…」

沙羅から記述の一部を見せられた。


「やっと終わりましたね」

湊は、椅子に座って、息を吐き出した。

机の上に、何冊か本が置かれている。

「昨日君が持っていた本もある?」

「はい」

湊は置いておいた本を琉晴に見せた。

「その本は、あやかしにしか読めないんだよね?」

「鵺は、そう言ってましたね」

「その鵺を呼び出してくれる?」

「え?」

湊は戸惑った。

「別に何もしないよ。ただ聞きたいだけだ。この本の内容を」

湊は渋々、鵺を呼び出した。

「お前、よくも私の化身を奪ってくれたな」

不機嫌な表情をした鵺が姿を現した。

「そんなに怖い顔で睨まないでよ。これを解読してほしいだけなんだ」

琉晴は本を指差した。

「…条件がある。本の内容がわかったら、私の化身を返してもらう」

琉晴はしばらく黙っていたが、静かに口を開いた。

「すべてが解決したら、化身は君に返すよ」

意外にもあっさり承諾した。

それに湊は拍子抜けした。

(俺が今まで何度頼んでも頷いてくれなかったのに…)

「何か裏があるのではないか?」

「どうだろうね。内容を教えてくれたら教えるよ」

無茶苦茶だ。