湊と琉晴は片付けを続けていた。

「これ、終わるんでしょうか?」

湊は棚を見ながら言った。

「終わらないわよ。兄さん、昔から片付けできなかったから。だから、絶対になくしちゃいけないものとかは別のところに保管してるの」

手伝いに入った娑羅が言った。

「ひどい言いようだなぁ」

琉晴が苦笑しながら言った。

「琉晴さん、この箱、なんですか?」

湊が棚の奥から小箱を見つけた。

「ん?」

琉晴は、小箱を受け取って中を見た。

「あ…」

「何が入ってたんですか?」

湊が覗き込むと、手紙が出てきた。

「あぁ、これ、兄さんと渚が文通してた時の。まだ取ってあったの?」

娑羅もやってきて思い出したように言った。

「文通?」

湊はなんのことだかわからなかった。

「実はね、兄さんは渚とお見合いする前に、お父さんとお母さんから、手紙でやりとりをするように言われていたのよ。なのに、それを晶に押しつけたの」

「は?」

そんなことは知らなかった湊は目を丸くした。

琉晴を見ると気まずそうにしている。

「それって…どういう…」

「お見合い当日の日、どんな雰囲気だったか覚えてる?」

湊は、渚と琉晴のお見合いの日を思い出していた。

確か、琉晴が渚にひどいことを言って、場が凍りついていた。

「あまり、いい雰囲気ではなかったはずです」

「そうなのよ。文通してたはずなのに、おかしいなって私も思ってたの。あとで聞いたら、手紙は晶が書いてたって言うんだもの」

「それは…姉さんは知ってるんですか?」

恐る恐る湊は娑羅に聞いた。

「知ってる。筆跡で違うって気づいたみたい」

「なんでそんなことしてたんですか」

湊は琉晴を睨んだ。

「…俺は、結婚なんか考えてなかったし、字も上手くなかったから、字が上手い晶に代筆させていたんだ」

「それで、渚が私に聞いてきたの。あの時の渚の顔は怖かった」

湊は渚が怒っている様子を見て身震いした。

「当然、お父さんたちには何も言えないから、私たちで一芝居打つことにしたんだけど…」

それが大失敗したらしい。

「兄さんが渚を怒らせるようなことを言って、そのまま喧嘩になった」

娑羅がため息をついた。

「直接会うのはあれがはじめてだったんだ。あんなの見たら、普通驚くでしょ」

「だからって、言っていいことと悪いことがあるでしょ。あのあとお母さんに叱られてたくせに」

「思ったことを言っただけだよ」

「兄さんは本当に分かってないのね。そんなこと言ってるから、貰い手だっていないんじゃない」

「あの…」

ただの兄弟喧嘩になってきた。

湊はその様子をヒヤヒヤしながら見ていた。

「とにかく、今はそんなことはいい。早く、あの本を解読しないと」

琉晴が強制的に会話を終わらせた。