前方を見ると、部屋があった。

「誰かいるかもしれない」

ドアに手をかけようとしたとき、誰かに肩を掴まれた。

「ダメだよ」

真白が振り向くと、琉晴が立っていた。

「ここは当主の部屋だ。限られた人しか中に入らないんだ」

「すみません。迷ってしまって」

「君、一人にならないようにって言われてなかった?君みたいな子は狙われやすいんだよ。術師や退魔師からも、それ以外の者たちからも」

琉晴は、一枚の紙を出して、筆で何か書いた。

それに息を吹きかけると、白い光が出て、真白が寝ていた部屋の前についていた。

「着いたよ。あんまり動き回らないようにね」

「ありがとうございます」

真白はドアを開けて部屋に入って行った。

「誰か術でも使ったのか?」

琉晴は真白が部屋に戻ったあと、つぶやいた。

「なんにせよ、あいつのところには誰も近づかないようにしないと」


渚は当主の部屋の前に立っていた。

ゆっくりとドアを開けて、部屋を見渡した。

「当主が、いない…」

ベッドには当主の姿はなかった。

「何をしているんだ?」

渚の後ろには当主の姿があった。

渚は振り向くと、当主に尋ねた。

「あなたは、本当にあなたですか?」

当主は眉間に皺を寄せた。

「何を言っているんだ?」

「あなたにお会いした時と今のあなたは、雰囲気が違うように感じられます」

それを聞いて、当主はしばらく黙っていた。

そしてゆっくり口を開いた。

「そうか…あいつ以外の者にも気づかれていたとはな…さすがは私を倒した娘だ」

そして、当主は天狗へと姿を変えた。

「やはりあやかしだったか。何が目的だ」

「これは仮の姿だ。私の本当の姿はその名前を言い当てぬ限りわからぬぞ」

「今、私がお前を倒したと言っていたな?私にはお前を倒した記憶はないんだが」

天狗はニヤリと笑った。

「お前の前世に倒されたのだ。顔がよく似ているぞ」

(まさか、知恵のことを言っているのか?)

「だが、詰めが甘いかったな。あの女は私を消滅させることはできなかったらしい。その代わりにあの忌々しい帝の従者にとどめを刺された。あの小僧…許さぬぞ」

(小僧…?)

「娘、私の正体が知りたいのなら、あの小僧に協力でもしてもらうといい」

そう言うと、消えていなくなってしまった。


「あの天狗と慧の言っていたことは、本当なのか?」

「渚、なんでこの部屋にいるんだ!」

琉晴が青い顔をしていた。

「琉晴、今…」

渚が言い終わる前に琉晴が、渚の肩を掴んだ。

「あいつと話したのか!」

いつもとは違う琉晴の様子に渚は戸惑った。

「…それはあの当主のことか」