真白は、夜中に目が覚めた。

また眠ろうと思っても目が冴えてしまってなかなか寝付くことができなかった。

「少しなら、大丈夫だよね」

一人にならないように言われたが、少し散歩するくらいなら平気だろうと思い、部屋を出た。

ドアを開けてすぐのところに、縁側があり、蛍がたくさん飛んでいた。

「すごい…!」

真白は感嘆の声を上げた。

真白の住んでいるところでは、こんなにたくさんの蛍はなかなか見ることはできない。

「こんばんは」

いつのまにか隣に男の人が立っていた。

(足音、聞こえたっけ?)

着物を着て、草履を履いていた。

(蛍を見るのに夢中になってて、気がつかなかったのかな?)

「ここは水が綺麗ですから、蛍がたくさん飛んでくるんです」

男性は、池を見て言った。

「私、こんなにたくさんの蛍を見たのは生まれて初めてです」

「喜んでいただけてよかったです。ですが、夜はお気をつけて」

「え?」

真白が男性を見た時には、すでに誰もいなかった。

(どこ行ったんだろう?)

真白は首をかしげて、屋敷へ戻った。


湊と慧は、琉晴の言っていることに疑問を抱いた。

「どういうことですか?」

「帝に仕えていた者たちの中で唯一、眷属を持つのを許可されていたものがいた。それが、俺の前世でもある術師だった。その術師が自分の眷属に命じて、退魔師や術師についての記録を書かせていた。それが、今湊が持っている本だ」

湊は、自分の持っている本を見た。

「これは、何について書かれたものか、ご存知なんですか?」

「神宮家に保管されている書物の中で、絶対にあるはずの本が書庫になかったんだ。もしかしたら、その本がそうかもしれない。それは、神儀りについて書かれている可能性が高い」

「それがなぜ、何の関係もない学校にあったんだ」

「以前、桜咲家の本家にあった姿見も学校の旧校舎にあったことがありました。なぜなんでしょうか?」

「昔、一人の術師が術具を保管していたらしい。それがあった場所に学校が建てられたんじゃないかと思うんだけど」

そこまで話して、琉晴は後ろを振り返った。

「…話の途中で悪いけど、用事を思い出した」

そう言うと、急いで走って行った。

「いきなりどうしたんだ?」

慧が不思議そうに言った。



真白は部屋に戻ろうとした。

しかし、どういうわけか、部屋が消えていたのだ。

「どうして?」

真白は部屋を出てしまったことを後悔した。

「大人しく、部屋にいればよかった…」