談話室にいる湊のところに慧がやってきた。

「湊、何してるんだ」

「高嶺先生、昼間の役割分担について、琉晴さんに聞きに行こうとしたんですけど、当主と話があるようだったので、ここで待っているように言われたんです」

「そうか。では手短に済ませる。この間話した本を持ってきた」

慧は、手にあの本を持っていた、

「持ってきていただいてありがとうございます。神宮家の人間なら、詳しい人がいるはずです」

湊は本を受け取った。

「助かる。いつも悪いな」

「いえ。あなたには教えていただいたことがたくさんありますから」

「お前と会ったのは、まだお前が小学生の頃だったな」

「そうでしたね。まだ前世の記憶が戻ったばかりの俺は、あなたがいてくれたことでとても安心できました」

「その前世のことについてもいくつか聞きたい。寿人としての記憶で、姉である知恵の記憶はどれくらいある?」

湊は腕を組んで考え込んだ。

「それが、知恵のことに関しては曖昧な部分が多いんです。重要なことのはずなのに」

「渚に似てなかったか?」

「そうですね。確かに姐さんに似ていました」

「知恵の記憶はどれくらいある?何かわかるかもしれないんだ」

「まずは、知恵に仕えていた侍女が清華(せいか)も含めて四人いたこと、残りの三人はおそらく、飛影たちの兄弟です」

「なぜ寿人と清華は結婚しているんだ?身分が違うのに」

「俺もそこが不思議なんです。前に真白ちゃんに途中までは話したんですが…」

「桜咲家にある本と記憶だけでは、限界があるか」

「鵺に聞いたんですが、この本は妖が書いたものだそうです」

「あやかし?」

慧は首を傾げた。

「妖力が強いあやかしであれば、文字を書くことも可能だそうです。もしかしたら、前に見た綾女のことについて書かれた本も、妖が書いたものかもしれません」

「しかし、あの時代にあやかしを眷属にしていた退魔師や術者なんて他には…」

「いるよ。帝に仕えていた中で一人だけ」

いつのまにか琉晴が立っていた、

「帝の一番の側近が、妖を眷属にしていた」