使用人に案内されて、渚はある部屋に案内された。

「奥様、お連れしました」

使用人が声をかけた。

「どうぞ。入って」

中から女性の声が聞こえた。

「失礼します」

渚は一言言ってから中に入った。

「ごめんなさいね。本当は主人も一緒のはずだったんだけど、体調が悪いみたいで…」

「いえ、大丈夫です。お大事にとお伝えください」

女性はにっこり笑った。

「本当に大人っぽくなったわね。初めてここにきたのは中学生の頃だったかしら?」

「そうですね。あなたからは様々なことを教えていただきました」

渚は、懐かしむように顔をほころばせた。

「でも、あなたが琉晴と揉めた時は、どうしようかと思ったわ。ごめんなさいね。あの子、主人に似てデリカシーのないところがあるから」

{それは否定できないな…)

渚は、心の中で同意した。

「そうそう。今日は頼みたいことがあって来てもらったの」

「そうでしたね」

そう言って、一冊の本を机においた。

「これは、百鬼夜行について書かれたものよ。あなたと湊くんには、全体の見回りをお願いしたいと思っているから」

「晶から聞いています。しっかり見回りをするので、安心してください」

「助かるわ。今年は色々なことが重なって、手が回らないから。よろしく頼むわね」


話を終えると、渚は部屋を出た。

「確かここから先に、当主の部屋があるんだったな」

渚は廊下を見つめた。

「…ここは、何かよくない気配がする。私でもわかるということは、琉晴が気づかないはずがない」

渚がそう感じていたのはここに修行に来てから、しばらくたった日のことだ。

「思えば、当主の具合が悪くなったのもその時からだったな。あの時から話してはいたが、最初に会った時と雰囲気が違う気がした」

渚が初めて神宮家の当主に会った時は、物静かであまり喋らない無口の印象だった。

ところが、ある時から雰囲気が変わったのだ。

あれはまるで何かが取り憑いていたようだった。

「本当に具合が悪いだけなのか?それとも…」



真白は、慧に夏休みに京都に行きたいということを話した。

「あぁ。もちろん連れて行くつもりだ。要たちもな」

「そのこと、みんなは知ってるんですか?」

「知っている。前に話したことがあるからな。あと、本条も連れて行ったほうがいい」

「春香も?」

「本条も前世の記憶を持っているからな。他の退魔師や術師たちが興味があるらしい」

「わかりました。春香にも言っておきます」

「それと、柏木。お前は向こうに着いたら絶対に一人になるな」