通院も落ち着き、結姫は再発の兆しはないと診断された。
安心して結姫も受験勉強に臨める。
そういうわけで、僕も家庭教師として結姫の部屋へ通うようになったんだが……。
「惺くん、ここも分からないよ~……」
「そっか、よし」
「何か、いい手がある?」
「うん。中学校一年生の部分からやり直そう。そっちの方が理解が深まるから」
そもそも結姫は、通院で学校を休むことも多くて知識に穴が多い。
最初からやった方が結果的にいいだろう。
「惺くんの鬼~……」
「答えを教えてもくれない、ヒントだけの悪魔よりマシだと思う」
「何の話? 面白い話?」
「……面白くはないかな。不思議で、助かる話ではあるけど」
親の期待も何もかも裏切り続けた僕だけど、今回ばかりは期待に応えられそうだ。
失敗ばかりの人生だったけど、だからこそ人に教えられることもある。
勉強で苦労したからこそ、結姫が何に悩んでるのかも理解ができる。
つまり僕の今までは、結姫のこれからのためにあったんだ。
「結姫が納得して勉強できるように、受験で出る問題との繋がりを纏めてきたよ」
「え……。ノートが一杯。これ、わざわざ用意してくれたの?」
「うん。習った問題が本当に出るか分かれば基礎の勉強も退屈じゃなくなるかなって」
「それは、そうだけど……。バイトあって大変だったんじゃない?」
大変、か。
結姫が求めた高校合格に繋がると思えば、何も感じなかったな。
「僕にできることなんて、これぐらいだから」
「惺くん……。ありがとう! 嬉しい!」
こんなことでも結姫は涙ぐんで笑ってくれるから、嬉しくてたまらないよ。
「よ~し、やる気が出た! こっから、また全力で頑張る!」
「公式とか暗記系は、書きながら喋ると覚えが良くなるよ」
「そうなの? どうして?」
「受け売りだけど、書くと喋るでは脳の別の部位を使うんだってさ。脳の二つの部位で覚えれば、悩んだ時にも浮かびやすいとか……」
塾か家庭教師か忘れたけど、そんなことを習った気がする。
「そういうもんなんだ! よし、じゃあ虚しく独り言を呟くけど、気にしないでね!」
「僕に説明する気分でやれば、虚しくないんじゃない?」
「あ、その手があったか」
天才か、というような目で見てくる。
コロコロと表情が変わる結姫を見てると、飽きない。
思わず笑みが零れてしまう。
「惺くん、何か楽しかった?」
「うん、コロコロ変わる結姫の表情が」
「よく言われるなぁ、それ。……惺くん、私のことで笑ってばっかじゃない?」
「そうかな? ちょっと覚えがない。それより、始めるよ」
おばさんやおじさんが任せてくれて、結姫も望んだ将来に辿り着くためだ。
無駄話で結姫が笑えるならって誘惑もあるけど……。
ここで家庭教師役の僕が負けるわけにはいかない。
いざスイッチが入ると、問題や答えを楽しそうに口へ出しながら勉強を始めた。
この結姫の笑顔、そして命を必ず守りたい。
家庭教師役を終え自宅へ戻る途中、母さんにメッセージを送る。
『アルバイト始めたいから、アルバイト許可証の保護者欄にサインが欲しい』
お米を研ぎ 炊飯器へセットしてると、すぐに母さんから返事がきた。
『何で? お金が足りないの?』
『遊びに行く費用を自分で稼ぎたい』
『分かった。書類を机に置いておいて。次にそっち行った時サインしておくから』
あっさりと許可が出た。
昔の教育熱心な母さんなら「そんな暇があるなら勉強しなさい」と言ってただろう。
「次に、こっちへ来た時か……」
母さんがアパートへ来るタイミングは分からない。何か規則性とかあるのかな?
最後に目を見て話したのは、いつだっただろう。今と昔、どちらがいいのか……。
自分でもハッキリしない、不思議な気分だ――。
安心して結姫も受験勉強に臨める。
そういうわけで、僕も家庭教師として結姫の部屋へ通うようになったんだが……。
「惺くん、ここも分からないよ~……」
「そっか、よし」
「何か、いい手がある?」
「うん。中学校一年生の部分からやり直そう。そっちの方が理解が深まるから」
そもそも結姫は、通院で学校を休むことも多くて知識に穴が多い。
最初からやった方が結果的にいいだろう。
「惺くんの鬼~……」
「答えを教えてもくれない、ヒントだけの悪魔よりマシだと思う」
「何の話? 面白い話?」
「……面白くはないかな。不思議で、助かる話ではあるけど」
親の期待も何もかも裏切り続けた僕だけど、今回ばかりは期待に応えられそうだ。
失敗ばかりの人生だったけど、だからこそ人に教えられることもある。
勉強で苦労したからこそ、結姫が何に悩んでるのかも理解ができる。
つまり僕の今までは、結姫のこれからのためにあったんだ。
「結姫が納得して勉強できるように、受験で出る問題との繋がりを纏めてきたよ」
「え……。ノートが一杯。これ、わざわざ用意してくれたの?」
「うん。習った問題が本当に出るか分かれば基礎の勉強も退屈じゃなくなるかなって」
「それは、そうだけど……。バイトあって大変だったんじゃない?」
大変、か。
結姫が求めた高校合格に繋がると思えば、何も感じなかったな。
「僕にできることなんて、これぐらいだから」
「惺くん……。ありがとう! 嬉しい!」
こんなことでも結姫は涙ぐんで笑ってくれるから、嬉しくてたまらないよ。
「よ~し、やる気が出た! こっから、また全力で頑張る!」
「公式とか暗記系は、書きながら喋ると覚えが良くなるよ」
「そうなの? どうして?」
「受け売りだけど、書くと喋るでは脳の別の部位を使うんだってさ。脳の二つの部位で覚えれば、悩んだ時にも浮かびやすいとか……」
塾か家庭教師か忘れたけど、そんなことを習った気がする。
「そういうもんなんだ! よし、じゃあ虚しく独り言を呟くけど、気にしないでね!」
「僕に説明する気分でやれば、虚しくないんじゃない?」
「あ、その手があったか」
天才か、というような目で見てくる。
コロコロと表情が変わる結姫を見てると、飽きない。
思わず笑みが零れてしまう。
「惺くん、何か楽しかった?」
「うん、コロコロ変わる結姫の表情が」
「よく言われるなぁ、それ。……惺くん、私のことで笑ってばっかじゃない?」
「そうかな? ちょっと覚えがない。それより、始めるよ」
おばさんやおじさんが任せてくれて、結姫も望んだ将来に辿り着くためだ。
無駄話で結姫が笑えるならって誘惑もあるけど……。
ここで家庭教師役の僕が負けるわけにはいかない。
いざスイッチが入ると、問題や答えを楽しそうに口へ出しながら勉強を始めた。
この結姫の笑顔、そして命を必ず守りたい。
家庭教師役を終え自宅へ戻る途中、母さんにメッセージを送る。
『アルバイト始めたいから、アルバイト許可証の保護者欄にサインが欲しい』
お米を研ぎ 炊飯器へセットしてると、すぐに母さんから返事がきた。
『何で? お金が足りないの?』
『遊びに行く費用を自分で稼ぎたい』
『分かった。書類を机に置いておいて。次にそっち行った時サインしておくから』
あっさりと許可が出た。
昔の教育熱心な母さんなら「そんな暇があるなら勉強しなさい」と言ってただろう。
「次に、こっちへ来た時か……」
母さんがアパートへ来るタイミングは分からない。何か規則性とかあるのかな?
最後に目を見て話したのは、いつだっただろう。今と昔、どちらがいいのか……。
自分でもハッキリしない、不思議な気分だ――。