ヴヴ、ヴヴ、ヴヴと、スマホがひっきりなしに震える感覚で目を覚ます。
手探りでスマホを探す間も振動は止まない。
やっとのことで探し当てた震える物体を重たい瞼を無理矢理こじ開けて見ると、部活の仲間達がメッセージアプリ上で大騒ぎだった。
昨日の大雨で活動場所である体育館が雨漏りしてしまい、今日からの3日間、活動休止となったそうなのだ。その後の活動は一旦未定らしい。
夏休みの終わりに試合もあるのにどうするんだ。雨漏りの修理ってどれくらいで終わるのかな。他に借りられる場所探さないと……。
とはいえ大騒ぎの原因は部活の今後の活動それ自体では無く。
ぽっかりと現れた3連休をどう過ごすか、と仲間たちはすっかり湧き立っているのだ。
とにかく了解と返信していると、すぐ横でタオルケットがもぞもぞと動き、可愛い頭がぴょこりと現れた。
「んん……コウ……」
「わり、起こした?」
「ん……。」
「まだ寝てていいよ。」
「う〜…」
イツキは眠たげににうめき、俺の胸の辺りにくっつけた顔をすりすりとすり寄せる。
結局昨日はラーメンを食べた後、2人でいつもみたいにゲームをした。
いつもと違ったのは、すぐに眠くなってしまうイツキが昨夜はどこか興奮気味でテンション高めだったこと。そんなとこも可愛くて。
明け方とうとう眠気に負けたイツキが肩に寄りかかってきたので、そのまま抱きしめて一緒にごろんと横になった。
雨はいつの間にか止んでいて外は静かで、俺の耳にはイツキの寝息だけが聞こえて……。
それから今この瞬間まで、イツキはくっついていてくれたらしい。
丸い頭を撫でると、目を閉じたままふにゃふにゃと微笑んだ。
一生眺めていられる。と、本気で思う。
閉じられた瞳の長いまつ毛を1本ずつ数えたいくらいだ。
すべすべの肌、形の良い鼻の頭。そして……唇。
はた、と思い当たる。
俺、この唇にずっと、キス、してた……。
何かとんでもない間違いを犯してしまったのではないかと背中がゾワリとした。
言うべきなんだろう。たぶん。
でも、なんて?
『俺、イツキが寝てる間にいつもキスしてたんだぞ。』
って?
は?
キモすぎるだろ。
軽蔑した眼差しを想像するだけで吐きそうだ。
いや、吐きたくなるのはイツキか。
どうかしてる。
初めての時……あの時はイツキが寝ぼけて俺を抱き寄せてきて……「すき」って、誰かに向けられた言葉に嫉妬して……
待てよ、でもイツキ、俺のことずっと好きだったって、ずっと、って……いつから?

「……ぷっ、」
「イツキ??」
「ふはっ、なにさっきから1人で難しい顔してんだよ。」
「いや、えぇと……」
答えを探してもごもごしている間も、イツキはくすくす笑い続ける。
「ふふ。てか今何時?」
「8時ちょっとすぎくらい。」
「えっっ部活は??」
「休みんなった。」
「そうなん?」
「うん。体育館雨漏りしてんだって。ちなみに、明日も休み。」
「まじか。」
「あさっても。」
「ガチ?」
「ガチ。」
「ガチかぁ……」
イツキは抱き枕みたいに俺に抱きついて鼻を擦り寄せる。ふわふわした髪が首筋に当たる。
「ふふっ、くすぐってぇよ。」
「だぁって嬉しーじゃん。」
「イツキなんか予定とかある?」
「なんも。」
「どっか遊び行く?……2人で。」
「行く!!めっちゃ行く!!」
「ははっ、なんだよめっちゃ行くって。でももちょっと寝るか。まだ眠いだろ。」
「ん〜……うん。」
「じゃー昼過ぎに出掛けよ。」
「うん。」
「おやすみ。」
髪をポフポフと撫でると、イツキはそれに応える様に俺を抱きしめる腕にぎゅうと力を入れた。
「おやすみぃ。」

はー……かわいい。
世界一可愛い。
昨日だって、……。
ダメだ。
思い出すな。
抵抗虚しく様々な刺激がフラッシュバックみたいに蘇る。
『……してやろうか。』
イツキの声が脳の奥で響いた。
白濁した湯の中で揺れる鎖骨の側のほくろ、その下の……。
そして、太ももに触れた指の感触。
……っ、無理だ、こんな、、ダメだって、イツキがどんな気持ちで……
「寝られないんですけど。」
「へっ?」
「……当たってんだよ。」
タオルケットの中で、イツキの太腿がもぞりと動いた。
「ごめ……っ、」
「いーよ。……俺も、だし。」
「えっ。」
「っ、だってそんなガチガチの押し付けられたらこっちだって……。」
「……イツキも?」
「うん……。」
「……触ってもいいか?」
「は??ばっかじゃねーの??」
「イツキだって昨日触ろうとしたじゃん。」
「あ、れは未遂だし、……っふ、ちょ、やめ……っ」
「ほんとだ。硬くなってる。」
スウェット越しにそっと触れると、さらにむくむくと大きくなるのを感じた。
「ほんっと、、やめろって…っ、」
先のところが弱いらしい。親指でほんの少しだけ強めに擦ってみる。
「ぅあ、コウ……っ」
ふぅふぅと荒くなった息が俺の首筋にかかる。
イツキの腰がわずかに動く。無意識に快感を求めてしまっているのだ。
直接触ったらどんなふうになるんだろう。どんな顔して、どんな声で。
そっと手を差し込むと、下着越しにじわりと湿度を感じた。
「やめっ、コウ、やだやめ…んっ、」
「かわいーな…」
「やっ、やめっ………っっ!!…やめろって、言ってんだろっっっ!!!」
ガバリと勢いをつけてイツキが体を起こす。顔が真っ赤だ。
「おっ前ちょ、ちょーし乗り過ぎなんだよっっっ!」
「…っ、ごめん!!!!!俺、ちょっと外走って頭冷やしてくる、イツキ寝てていいから、」
立ち上がろうとした俺の服の裾がグン、と引っ張られた。
「行くなよっ。」
「でも俺イツキの嫌がること、」
「ちがう、嫌とかじゃない。」
「でも、」
「聞けよ。嫌とかじゃねぇから、いきなりでびっくりしたっつーか、は、恥ずかしかっただけ。ほんとに嫌だったら一緒に風呂入ったり、してやろうかなんて言わない。くっついて寝たりしない。ぜんぜん嫌じゃない、むしろ」
「ちょ、ストップ。あんまり可愛いこと言われると困る。」
「なっ、あんま可愛いとか言うな。……っから、とにかく嫌じゃない。けど、」
「けど。」
「順番、とかあるだろ。」
「順番?」
「だからっ、俺たち、こっ恋人になったんじゃねぇの?」
「そう、だな。なった。」
なった、なったのか?うん、なった。え?まじ?
「そしたらまずは一緒に出掛けたりとか、あるじゃん。エロいことはその後っつーか……」
「その後ってお前……」
「やっちがう、そういうことじゃなくて、だから〜〜あ〜〜もう、何言ってんだろ。」
「段階踏んで、みたいなこと、ですか。」
「……です。って、……ふっ」
「イツキ?」
「あっはっはっ」
「なに??どした??」
「だって俺たち朝っぱらから真面目な顔して何話してんだって思ったらちょっとウケる。ぅはは」
「……ぷっ、たしかに。あはは。」
「はははは、あーだめだもう寝れん。目ぇ覚めちった。」
「もー起きよっか。」
「ん、起きる。」