自宅の最寄りのバス停からは勢いに任せて走って帰った。すぐにずぶ濡れになり、謎の高揚感でひとりでに笑ってしまう。
「ただいまー!イツキータオルとってくんねー?すっげー雨!!」
返事は無く、家の中はしんとしていた。
「イツキ?」
よく見れば、玄関にイツキのスニーカーが無い。
出掛けてんのかな。
この雨の中を?
部活のバッグの中にスポーツタオルが入っていたことを思い出し、とにかくそれで拭けるだけ体を拭く。
不快に張り付く靴下を脱ぎ、足の裏を拭って家に上がる。リビングと和室を覗いてみるも、イツキの姿は無かった。
どこに行ったんだろう。
スマホを見ると、メッセージをひとつ受信していた。
イツキから……1時間以上前だ。
『傘持ってる?』
イツキ……もしかして、
ガチャリ、と玄関のドアの開く音がして慌てて向かうと、びしょびしょのイツキが青い顔をして立っていた。
「イツキ!?」
「コウ、……おかえり。」
「ただいま、って、なぁ、もしかして俺のこと迎え行ってくれてた??」
手元の2本の傘を見るに、そうなのだろう。
「あぁ、うん。でも、すれ違っちゃったみたいだな。」
「ごめんっ!俺ぜんぜんスマホ見てなくて。」
「もーちゃんと見ろよなー。俺、濡れ損じゃん。」
無理して笑ってる。声にも力がない。
「ちょっと待って、タオル持ってくるから。」
バタバタとバスルームに走り、タオルを掴む。ついでに自動給湯のボタンを押して玄関に引き返す。
「イツキ、大丈夫か?」
わしわしと頭を拭いてやりながら尋ねた。
「……大丈夫じゃねーよ。……めっちゃ寒い。風呂入りてー。」
「とにかく濡れたの全部脱げ。風呂今沸かしてるから、沸いたらすぐ入れな。」
「コウもずぶ濡れじゃん。」
「俺はいいよ。もう乾いた。」
「乾かねぇよ。」
ふふ、と笑うイツキに少しほっとする。
「コウ。」
「ん?」
「……一緒に入る?」
「え?」
「風呂、一緒に入ろうぜ。」
「いや、それは……」
ちょっといろいろ、まずい気がする。
「いいじゃん。昔はよく一緒に入ったろ。」
「ガキの頃の話だろ。」
「なんで?やだ?」
「やだくねーけど……」
何故だか妙に必死な様子に負けてしまう。
「……わかった、わかったよ。一緒に入ろう。」
なによりもまず、震えるイツキをあたためなければ。
余談だが、うちは風呂だけめちゃくちゃデカい。家を建てる時に父さんがここだけはとこだわって作ったそうだ。
高校生男子が2人で入っても、まだ余裕がある。
お察しの通り、余裕がないのは俺の下半身だ。
脱衣所でイツキが張り付いたTシャツを脱いだ時からもう限界だった。正確に言えば、体にピタリと張り付いたTシャツがもうダメだった。
寒さからか、ささやかに、しかし確かにツンと主張する小さな胸の突起がふいに視界に入る。いや、ごめんなさい。意志的に見ました。
本当は先にイツキを入れてやりたかったけど無理で、痛いくらいに張り詰めた昂りをなんとかタオルで隠してバスルームに入った。
イツキが浴室に入ってくる前に急いでシャワーを浴び、浴槽に飛び込む。
保湿成分入りのミルクのような入浴剤を多めに投入した。これだけ白く濁らせればひとまず安全だ。
イツキはさっきから黙ったままで、シャワーの水音だけが響いて、どうしても意識が気配に集中してしまって……下半身は収まるどころかじわじわと熱くなるばかりだ。
「コウ。」
「……。」
「寝てんの?」
「……寝てない。」
「なんでずっと目ぇ瞑ってんの。」
「べつに。」
「なぁ。」
「なに。」
「……さっき帰る時滑って転んじゃってさ。背中、赤くなってない?」
「は??どこ??そういうことは早く言え……っ」
思わず目を開けると目の前にあったのは、傷ひとつない、イツキの綺麗な背中と、……尻。
「ばぁか。嘘だよ。」
「……っ!」
ちゃぽん。
ほとんど飛び込んだ俺とは正反対に、イツキはゆっくりと湯船につかる。
濡れた髪、高揚した頬、鎖骨の側の小さなほくろからも、もう目が離せない。
なにか、なにか話題を……
「迎え、きてくれたのにごめんな。」
「いいよ、もう。」
「どこまで行ったの?」
「……すぐそこ。」
「その割には帰ってくるの俺より遅かったよな。」
「もういいじゃん、その話は。それより……それ、どうすんの。」
「それ?」
「それ。」
イツキの視線を辿る。視線の先は白く濁った湯の中の……俺の……
「……!!」
慌てて両手で覆って隠したので、湯がザバリと波立つ。
「気づいて……っ??」
「隠せてるつもりだったのかよ。デカいんだよ、お前の。」
恥ずかしすぎる。
「コウ。」
「なんだよ。」
一生でこれ以上いたたまれないことなんてもう無いんだろうな。うぅ。
「……してやろうか。」
「え?」
「俺がしてやるよ。」
「は???」
「それそのままじゃ辛いだろ。抜いてやるって言ってんの。」
「ちょ、何言ってんだよイツキ……っ」
心拍数が上がる。動揺している間にも浴槽の向かい側からイツキが近づいてくる。
湯の中で、すらりと長い腕がこちらに伸びてきた。そのまま、つい、と太ももに触れる。
「ひっ……!」
「ふ、なにその声。」
「だって、も、ほんと、駄目だって……っ、」
「なんで駄目?こんなんなってんのに?」
じわりと指先が太ももの内側へ移動していく。
「ほんっと、やめ……っっぅ……」
「なんで……」
「ふぇ?」
「なんでだめなんだよ、コウ……っ…」
「イツキ……?」
「……。」
「イツキ、顔上げて。」
「やだ。」
「やだじゃない。ほら。」
頬に手を添えて顔をこちらへ向けさせる。
「泣いてる。」
「泣いてない。」
「どした?なんかあった?」
「泣いてない……っ。」
「ただいまー!イツキータオルとってくんねー?すっげー雨!!」
返事は無く、家の中はしんとしていた。
「イツキ?」
よく見れば、玄関にイツキのスニーカーが無い。
出掛けてんのかな。
この雨の中を?
部活のバッグの中にスポーツタオルが入っていたことを思い出し、とにかくそれで拭けるだけ体を拭く。
不快に張り付く靴下を脱ぎ、足の裏を拭って家に上がる。リビングと和室を覗いてみるも、イツキの姿は無かった。
どこに行ったんだろう。
スマホを見ると、メッセージをひとつ受信していた。
イツキから……1時間以上前だ。
『傘持ってる?』
イツキ……もしかして、
ガチャリ、と玄関のドアの開く音がして慌てて向かうと、びしょびしょのイツキが青い顔をして立っていた。
「イツキ!?」
「コウ、……おかえり。」
「ただいま、って、なぁ、もしかして俺のこと迎え行ってくれてた??」
手元の2本の傘を見るに、そうなのだろう。
「あぁ、うん。でも、すれ違っちゃったみたいだな。」
「ごめんっ!俺ぜんぜんスマホ見てなくて。」
「もーちゃんと見ろよなー。俺、濡れ損じゃん。」
無理して笑ってる。声にも力がない。
「ちょっと待って、タオル持ってくるから。」
バタバタとバスルームに走り、タオルを掴む。ついでに自動給湯のボタンを押して玄関に引き返す。
「イツキ、大丈夫か?」
わしわしと頭を拭いてやりながら尋ねた。
「……大丈夫じゃねーよ。……めっちゃ寒い。風呂入りてー。」
「とにかく濡れたの全部脱げ。風呂今沸かしてるから、沸いたらすぐ入れな。」
「コウもずぶ濡れじゃん。」
「俺はいいよ。もう乾いた。」
「乾かねぇよ。」
ふふ、と笑うイツキに少しほっとする。
「コウ。」
「ん?」
「……一緒に入る?」
「え?」
「風呂、一緒に入ろうぜ。」
「いや、それは……」
ちょっといろいろ、まずい気がする。
「いいじゃん。昔はよく一緒に入ったろ。」
「ガキの頃の話だろ。」
「なんで?やだ?」
「やだくねーけど……」
何故だか妙に必死な様子に負けてしまう。
「……わかった、わかったよ。一緒に入ろう。」
なによりもまず、震えるイツキをあたためなければ。
余談だが、うちは風呂だけめちゃくちゃデカい。家を建てる時に父さんがここだけはとこだわって作ったそうだ。
高校生男子が2人で入っても、まだ余裕がある。
お察しの通り、余裕がないのは俺の下半身だ。
脱衣所でイツキが張り付いたTシャツを脱いだ時からもう限界だった。正確に言えば、体にピタリと張り付いたTシャツがもうダメだった。
寒さからか、ささやかに、しかし確かにツンと主張する小さな胸の突起がふいに視界に入る。いや、ごめんなさい。意志的に見ました。
本当は先にイツキを入れてやりたかったけど無理で、痛いくらいに張り詰めた昂りをなんとかタオルで隠してバスルームに入った。
イツキが浴室に入ってくる前に急いでシャワーを浴び、浴槽に飛び込む。
保湿成分入りのミルクのような入浴剤を多めに投入した。これだけ白く濁らせればひとまず安全だ。
イツキはさっきから黙ったままで、シャワーの水音だけが響いて、どうしても意識が気配に集中してしまって……下半身は収まるどころかじわじわと熱くなるばかりだ。
「コウ。」
「……。」
「寝てんの?」
「……寝てない。」
「なんでずっと目ぇ瞑ってんの。」
「べつに。」
「なぁ。」
「なに。」
「……さっき帰る時滑って転んじゃってさ。背中、赤くなってない?」
「は??どこ??そういうことは早く言え……っ」
思わず目を開けると目の前にあったのは、傷ひとつない、イツキの綺麗な背中と、……尻。
「ばぁか。嘘だよ。」
「……っ!」
ちゃぽん。
ほとんど飛び込んだ俺とは正反対に、イツキはゆっくりと湯船につかる。
濡れた髪、高揚した頬、鎖骨の側の小さなほくろからも、もう目が離せない。
なにか、なにか話題を……
「迎え、きてくれたのにごめんな。」
「いいよ、もう。」
「どこまで行ったの?」
「……すぐそこ。」
「その割には帰ってくるの俺より遅かったよな。」
「もういいじゃん、その話は。それより……それ、どうすんの。」
「それ?」
「それ。」
イツキの視線を辿る。視線の先は白く濁った湯の中の……俺の……
「……!!」
慌てて両手で覆って隠したので、湯がザバリと波立つ。
「気づいて……っ??」
「隠せてるつもりだったのかよ。デカいんだよ、お前の。」
恥ずかしすぎる。
「コウ。」
「なんだよ。」
一生でこれ以上いたたまれないことなんてもう無いんだろうな。うぅ。
「……してやろうか。」
「え?」
「俺がしてやるよ。」
「は???」
「それそのままじゃ辛いだろ。抜いてやるって言ってんの。」
「ちょ、何言ってんだよイツキ……っ」
心拍数が上がる。動揺している間にも浴槽の向かい側からイツキが近づいてくる。
湯の中で、すらりと長い腕がこちらに伸びてきた。そのまま、つい、と太ももに触れる。
「ひっ……!」
「ふ、なにその声。」
「だって、も、ほんと、駄目だって……っ、」
「なんで駄目?こんなんなってんのに?」
じわりと指先が太ももの内側へ移動していく。
「ほんっと、やめ……っっぅ……」
「なんで……」
「ふぇ?」
「なんでだめなんだよ、コウ……っ…」
「イツキ……?」
「……。」
「イツキ、顔上げて。」
「やだ。」
「やだじゃない。ほら。」
頬に手を添えて顔をこちらへ向けさせる。
「泣いてる。」
「泣いてない。」
「どした?なんかあった?」
「泣いてない……っ。」