夜倉は作業を終えて、他のレーンに移動しようとした時、あの~と小さい声であったが、音がしたので振り向く。

 そこにはよく来る茶髪な男子高校生だった。

「なんでしょう?」

 夜倉はカゴ車を両手で持ち、真顔で聞き返す。

「…このフィギュア何回やってもとれないんですけど。これ本当にとれるんですか?」

 今にも泣きそうな目をして、ウルウルと水を膨らませるようにしていた。

 フィギュアとれないからって泣くほど?

 確かにあなた来る度にこのフィギュア取ろうとしていたけど、取れる人を見たのはたった一人。

 そう常連客の70代の一人の方だ。

 孫が欲しいと言っていたのを思い出して、なんとなく気軽にやったらとれたのだ。

「とれますよ。私が知っている限り、一人はとっています」

 男子高校生と向き合い、目を見据えた。

 首をひねって両腕を組み、「いや~」とお笑い番組の前説をするような口ぶりで言う。

「何回もやっても本当に取れないんです。教えてくれないなら取れた人に会いたいんですけど…」

 男子高校生は一歩踏み出して、睨みつけるように夜倉と面と向かう。

 本当にとりたいからって、取れた人に会うまでの発想になるのが驚きだ。