10年前の出来事を夢に見て目覚めた坂本修(さかもと しゅう)。彼がずっと追い続けている「影」――それは、幼馴染の川村彩花(かわむら あやか)。彼女が何も言わずに姿を消してから、修の心にはぽっかりと穴が開いていた。そんな彼の胸に、再び現れた彩花の姿が重なる。
修は東京の繁華街にあるオフィスビルで、建築家として働いていた。彼のデスクには、夢だった建築デザインの仕事に情熱を注いでいる証が並んでいた。スケッチブック、模型、そして完成したばかりのプロジェクトの図面。それらは彼の成功を物語るものだったが、どこか心の奥には虚無感が残っていた。
その虚無感は、10年前の出来事に由来していた。修には幼馴染の彩花がいた。彼女はいつも明るく、彼のそばにいてくれる存在だった。しかし、ある日突然、彩花は姿を消した。それ以降、彼女の行方を知る者はいなかった。修は彼女を忘れられず、心のどこかで彼女の影を追い続けていた。
ある春の日、修は新たにデザインを担当することになったビルのオープニングイベントに参加することになった。自分の手がけた建物が、多くの人々に認められる瞬間を心待ちにしていた。大勢の人が集まり、華やかな雰囲気が漂う中、修は自分のデザインを誇らしげに見つめていた。
イベントが始まり、修は緊張しながらも喜びを感じていた。多くの来賓や関係者が集まっており、自分の努力が実を結んだことを実感していた。しかし、そんな時、不意に目に入ったのは、見覚えのある姿だった。思わず目をこらすと、それは幼馴染の彩花だった。
まるで何事もなかったかのように、彩花は会場の中で笑顔を浮かべていた。修の心臓は大きく跳ね上がり、一瞬息を呑む。彼女の姿は、修の記憶の中にあったままの彼女そのものだった。長い間、彼女を思い続けていた修にとって、これは夢のような瞬間だった。
しかし、彩花は修の方を見向きもせず、他の人々と楽しそうに話していた。修は彼女に近づきたい気持ちでいっぱいだったが、足が動かない。あの10年前の別れの瞬間が、彼の中で何度も繰り返される。彼女のことを知りたい、聞きたいことが山ほどあった。