高校3年生の夏、僕――藤沢翔太は、転校生の橘美琴と出会った。彼女は明るく笑うけれど、どこか儚げな雰囲気を纏っていた。クラスにすぐ馴染んで人気者になった美琴に、僕も自然と惹かれていった。

ある日、放課後に二人きりになったとき、美琴は突然「私、長く生きられないんだ」と言った。彼女には持病があり、余命が限られていることを告げられた。その告白は僕にとって衝撃だったが、同時に、僕の中で彼女への特別な思いが強くなった。

「君のことを、一生忘れたくない」と僕は誓った。


それから、僕は美琴とできるだけ一緒に過ごすようになった。学校帰りに寄り道をしたり、夏祭りに行ったり、彼女のために少しでも特別な日々を作ろうと心を砕いた。美琴はそのたびに笑顔を見せてくれたが、時折、寂しそうに遠くを見つめている姿が胸に刺さった。

美琴は、誰にも言えない不安や恐れを抱えながら、僕と過ごす日々を大切にしていた。それが彼女の「最後の夏」だということを、僕は忘れないようにしていた。だけど、どうしても未来のことを考えたとき、心に重い影が差し込む。


夏が終わりに近づくと、美琴の体調は急に悪化した。彼女は学校に来られなくなり、病院での生活が中心になった。それでも僕は、美琴の元へ通い続けた。彼女の病室で一緒に映画を見たり、教科書を開いて話したり、できる限り普段の生活を取り戻そうと努めた。

ある日、美琴は僕にこう言った。「ねえ、もし私がいなくなっても、ちゃんと前に進んでね。私のことをずっと忘れないでいてくれるのは嬉しいけど、それ以上に翔太には幸せになってほしいんだ。」

その言葉に僕は「君がいなくなるなんて、考えたくない」と絞り出すように答えた。でも彼女は、穏やかに微笑んでいた。


ある日、僕が病室を訪れたとき、美琴の容体が急変していた。医師や看護師が慌ただしく動き回る中、僕はどうすることもできず、ただ祈るしかなかった。その夜、美琴は静かに息を引き取った。

数日後、美琴の家族から一通の手紙が僕に渡された。それは美琴が僕に宛てた最後の手紙だった。

「翔太へ。
私がいなくなったら、たくさん泣いてもいいよ。でも、泣き終わったら、笑ってね。私は、翔太と過ごした時間が本当に幸せだった。最後に、私を選んでくれてありがとう。
これからも、君が幸せであることを遠くから見守っているよ。」

その手紙を読んだとき、僕は涙が止まらなかった。でも同時に、美琴が望んでいたように、彼女を忘れず、前に進む決意をした。


それから数年が経った。僕は美琴のことを思い出すたびに、彼女との時間がどれほど大切だったかを感じるようになった。彼女は僕に生きる力と、誰かを愛することの意味を教えてくれた。

今でも、美琴の笑顔や声が心に響いてくることがある。彼女が僕にくれた「光」は、僕をずっと導いてくれる。

「余命最期の君を、僕は一生忘れない。」
そう心に刻みながら、僕は今日も一歩ずつ前に進んでいく。