小さな町の片隅で、彼女と僕は幼い頃からいつも一緒だった。彼女は僕より二歳年下で、小さな手で僕にしがみつき、どこへ行くにもついてくる可愛い妹のような存在だった。いつも「お兄ちゃん」と呼ばれていたが、僕はその呼び方が少し恥ずかしかった。

彼女は明るく、誰にでも笑顔を振りまく女の子だった。僕は不器用で、人との距離をうまく保てない性格だったけれど、彼女だけは自然に隣にいる存在だった。時が経つにつれて、僕たちはいつの間にか「幼馴染」として周りから認識されるようになり、僕たち自身もそれが当たり前だと感じていた。

高校に進学する頃、彼女は相変わらず僕の背中を追いかけていたが、いつしかその姿が幼くなくなっていることに気づいた。彼女の笑顔が少し大人びて、僕を見つめる目も以前とは違う何かを感じさせるようになった。

「ねえ、また明日も一緒に帰ろう?」
放課後、彼女が笑顔で言ってくる。その無邪気な笑顔に僕は心の奥がチクリと痛むのを感じた。

「うん、いいよ」
僕はいつものように答えたが、心の中では何かが少しずつ変わっていくのを自覚していた。

大学に進むため、僕は町を離れることになった。引っ越しの日、彼女は僕の家の前で立ち尽くしていた。彼女は僕よりも少し背が高くなっていて、その成長を目の当たりにすると、幼馴染としての関係が終わりつつあるのかもしれないと感じた。

「ねえ、行っちゃうんだね」
彼女が静かに呟いた。

「うん、でもまた帰ってくるよ。夏休みとか、冬休みとか」
僕は軽い口調で答えたが、彼女の目がどこか寂しげだった。

「私、ずっとお兄ちゃんだと思ってたけど…最近、そうじゃないかもしれないって思うの」
突然の告白に僕は驚いた。彼女の真剣な表情を見て、何かを言おうとしたが、言葉が出てこなかった。

「もう、子供じゃないから」
そう言って彼女は微笑み、僕に背を向けて走り去った。その背中を見送ると、僕の中で何かがはじけた。彼女はもう「妹」ではない。そう感じた瞬間、幼馴染という枠を超えた感情が芽生えたのを自覚した。

それから一年が過ぎ、僕は久しぶりに町に帰ってきた。彼女は相変わらず町にいて、変わらない笑顔で迎えてくれたが、彼女の瞳には以前とは違う強さがあった。

「帰ってきたんだね」
彼女が微笑んだ。

「うん、帰ってきたよ」
僕も微笑み返した。

もう「お兄ちゃん」と呼ばれることはない。僕たちは幼馴染であり、そしてこれからは恋人として、新たな関係を築いていくのだ。そう、彼女が大人になる過程で、僕もまた成長し、彼女と向き合う準備ができたのだ。

二歳差の幼馴染の恋が、静かに始まろうとしていた。