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急に悲しいなんてことはなかった。
私は梅雨のジメジメしたにおいがあまり好きではなかった。梅雨が明けて夏に変化、その夜のにおいがすきだなあと思っていたから。夏のにおいがすき、なんて言ったら大抵引かれてしまうし、正直冬の夜のにおいも好みで選べない。だからあまり言わないのだけど。
夏の熱い風が、今日はちょっとだけ温いのが、徐々に悲しかった。の、かもしれない。
青い空を追い詰めてしまうような白の綿が、密度を濃くして膨らんでいるのを教室の窓から眺めて。それはそれで季節の象徴だからすき。掴めそうになくてすきだ。
「だからこの公式に当てはめて計算をすると〜、」
怠くてたまらない数式の数々が聞こえてくるけど眠い。瞼が重くて平衡感覚が狂いそう。それを繰り返してもう、もう夏だったんだなあって。
夏だった。
冷えきった空気が満ちた教室、燦燦と照る太陽、部活に精をだす生徒の掛け声、黒板の数式。ほんとは家でだらだらとアイス食べて漫画でも読みまくってるはずなのに。
目の前の数式に耳が痛い。夏はすきだけど流石に懲りている。補習だけが最悪だ。