ない筈の効果が自分の脳内でだけ放たれたような、気分だった。


やけに真っ直ぐ貫いたその笑顔が。
ゆらゆらした不安定に生じた笑みとその言葉が。


確かに立っていたその場がすこし緩んだのかと思った。自分内でしっかりと持っていたなにかが意を決して沈んでいく心地さえした。


雨の音が確かに耳に届く。それで現実的な部分を取り戻す感覚が今までにない、今いちばんの感情で。本能的。


黙っている空間にぐっと足を踏み正して。



「それも冗談?」



動揺なんて心底ダサい。



「本気って言ったらどうする?」



一瞬きょとんとした天辻はすぐに口元を笑ませて、なぜか背を向けた。奥のほうに立てかけてあった水色の華奢な傘を持って戻ってきた天辻はたのしそうにしている。


返答しようにも言葉に詰まった俺に水色の傘を差し出した彼女の、微笑みはすこし固い気がした。



「……天辻、って、思ってたのとやっぱ違ぇね」

「そうかな。傘貸すようなキャラじゃないって思われてたのかな」



貸してくれるつもりで差し出されたらしい傘を受け取る。



「私は要らない。今要らない。友だちの家に行く口実にしたいし」



そういうところも、思っていたのと違う。見た目だけならそう思わない刹那主義。


なのになんでこんなに、焦るのか、わからない。何も。わからない、鬱陶しい感情が逸るのもウザったい心音も。