「出会い方次第なんだよね、こんなの駄目だけど。たのしいって今思わないと自分から動けないの」

「うん?」

「どうせ誰でも、' 今いちばん ' だから」



この秒針が動いている現実が、数秒の切り返しが、楽しくないと動かない。それはわかる、けどそれじゃあ今この瞬間は。


ころころと笑ってみせた天辻の、目が細められて。



「今楽しいよ」



また脳裏を過ぎった四文字が変に音を立てる。おかしいってわかっているのに、そこまで簡単じゃないこと、経験上理解承知認知、してる。


している、から、おかしいだろ。


こんなの、おかしい。予測変換不可能で未知数で、何だよ。意味がわからない。



「……俺、天辻のことちょっとまだわかんない」

「当たり前じゃん。はじめて喋ったんだし? 私も成澤のこと全然わかんないよ」

「はじめて喋ったっていうアレじゃないよな。なんか割と社交的ってか、」

「私が? そう見えてるならうれしい、だって他と同じじゃ嫌」



雨の音がざあっと強くなった気がした、隙間、都合よく止まる時間なんてものはない。よく見る恋愛ドラマの時が止まったような効果はないのに。



「そういうこと思うんだ。意外」

「うん、今いちばん、ね。でも、」



ない。



「私はべつに特別な扱いしてほしーとか思わないんだけど、」



ない筈なのに。


天辻がちいさく笑う。



「成澤の特別にはなってみたいかもね」