沈黙が雨音に消されるくらいがちょうどいい、と思った。不都合が都合良くてややこしいのに面倒臭い。今日は早く帰って、まあ、することなんてないし。
テキトーに動画観て漫画読んで変哲のない時間帯を、ゆっくり過ごすことしか、ない。
ぼうっと雨が止むのを待つように眺めていれば、スマホの通知音が軽快に響いた。たぶん俺のじゃなくて、天辻の。って。フツーにわかるけど。
「成澤って、」
「うんー」
「国語得意?」
意図が掴めずに天辻を見る。スマホの画面を此方に向けている姿に首を傾げた。
「読めないんだよね、漢字」
「おれ辞書じゃないんだけど」
「申し訳ないよ」
「う、えーと、」
指をさされた箇所を読み上げる。それを聞いてすこし眉を寄せた彼女の、表情はあまり想像していなかったもので。
こんな顔もするのかとつい覗き込んで、って危ない。戒めに鼓動が鳴って溜め息を吐き出した。
天辻は顔を上げてまたわらった。
「バカにしてんでしょー。ほんとは読めるんだからね」
「意外だっただけでバカにはしてないって」
「ふぅん」
その後ちょっと勝気に目を逸らすとこ、とか。
なんか。
「嘘じゃないよ、きみに近づいてほしくてわかんないフリしたの」
なんか。
なんか。
「……え、」
なんだ。