そいつは、天辻はわざとじゃないよと言って、近寄ってきてタオルを差し出してくる。



「使って。風邪引いちゃうよ」

「……や、申し訳ないしべつに、」

「大丈夫だいじょーぶ、今日1回も使ってないからたぶんきれいだし。私今要らないから」



思ったよりグイグイくるな、と思った。


受け取ってしまったタオルを片手に天辻みやこの顔を見る。ちょっと揶揄を含んだ笑顔、肩に触れるほどの栗色の髪、真正面から受け取る情報が解像度上げて刺さった。


三白眼気味なのか、見上げているからなのか、はっきりと合う眼が印象的に映る。



「ありがと」

「うん」



他の言葉が見当たらなかったのを誤魔化すように再び土砂降りに目を向ければ、雨ひどいね、と天辻が呟いた。



「しばらくここにいるしかないかもな」

「え、成澤って徒歩?」

「徒歩。天辻は? どーやって帰んの」

「私は電車だよ」

「遠いんだ?」

「そうでもないよ。あ、佐伯くん? と同じ中学だったし。隣の町の方の」

「佐伯と?」



うん、と相槌を最後に会話が途切れる。


雨はまだ鳴っている。