深呼吸の吐き出す動作が思わず止まる。スマホを見ていたそいつは俺に気づいたように顔を上げて、此方に目を向け瞬かせた。
「……、あ」
驚いたような声を出されて、なんとなく気まずい。
というのもあまり接点の無いクラスメイトで、同じクラスになって数ヶ月、会話のないようなやつ……がいきなり顔を見て一文字発したことが居心地悪かった。
此方から声をかけるべきか迷ってとりあえず目を逸らしつつ、額に張り付いた雨雫を手の甲で拭う。その間も雨は集中的に勢いを増して、地面に飛び込んで。
喧しかった蝉も流石に黙ったままだ。
「成澤 郁」
ぼうっと外を見ていると不意に名前を呼ばれる。
「え、」
思わずそいつを見れば困ったような表情が、俺を見ていた。
「名前、合ってる?」
控えめに確認されて躊躇いながらそうだと首を縦に振り、合っている旨を伝える。するとそいつはへらへらした笑顔を浮かべて自分の顔を指さした。
意図がわからず首を傾げれば、
「私の名前、天辻 みやこっていうんだけど」
「え? ああ…、クラス同じだよね」
「それは知ってるんだ。意外ー」