「おまえのそういう強がり方とか、不器用とか、人付き合い下手なとこ、バカみたいなとこ、弱いとこ」



夕立が連れてきた成澤の真っ直ぐな眼に、私はいつでもぐらぐらと道を踏み外して。


結果戻れない先で、私、抜け出す気もなかったって。それだけは知らないでほしい。真正面から突破する脆弱が、こんなに大打撃なんて知らずにいたのに、いたいのに。



「も……、恥ずかしいから。あんたは良いかもだけど私慣れてないんだよ、こういう、恋愛事とか」

「俺もそんな慣れてないけど。おまえしか好きになったことないし」

「バッカ、イケメンしか許されてない台詞いま言うなよ」



私しか、って呪いだ。

特別視してほしいわけじゃない、特別扱いでもてなされたいわけじゃないって大声張っていても、たった1つのフレーズだけで視界の真ん中にいられるような心地になる。


私しか、って砂糖だ。

ずっと頑なに存在してたところを徐々に気づかれないように蝕んでいく、遅効性のあまいあまい毒だ。



「今言わなきゃ俺を特別になんかしてくれないだろ」



不慣れな器用も、まっすぐすぎる不器用も、真正面からながれる黒の眼もぜんぶ羨ましくて焦がれてしまう。その時限爆弾が恋愛感情っていう正式名称ならとっくに途中放棄したのに。


今、なんて言われたら。今、なんていちばん安心できる材料。今、なんて。今いちばん、って私じゃなきゃ誰も理解してくれない。筈だった。


未来が、将来像が信じられない私の、今が突き動かされる甘ったるい起伏の所為ならそれで。



「今いちばん、そばにいたいかも、ね」



ルート変更は今できない。