思わず彼のほうを見ると、また複雑そうな表情が私に向いている。じゃあ何なのって簡単に済ませたいけど器用な成澤の不器用な部分見たさにわざとわからないフリをした。
こういう時鈍感になるのが鉄則だって思っててごめん、でも私は。彼の言葉やシナリオや音が、欲しいって希うほど。この面倒臭い感情の縺れを断絶したい、から。
だって。
心底。
「手放すなよ、自分勝手に」
手放せない。
「言っとくけどおまえみたいに気分屋で自分勝手で情緒おかしい女、相手にできるやつは早々いないけど」
「ディスり方えぐすぎでしょ。そこまで言う?」
「事実だろ、でもさ」
ああ無理、なんか続きなんか聞いちゃったら。
苦しくて多幸感で、致死量で、予測変換で、数秒先の言葉読み込めなくて。簡単に落下地点を定められそうだ。
「でも天辻に今会いたいって言われたらいても立ってもいられないんだよ、ずっと」
って。
成澤だけには絶対言わない、言わせたい、そんな存在だって。
「……私のことすきじゃーん。照れるよ、熱烈すぎて」
「そうだよ、それくらい知っててよ」
駄目だ、もうもうもう。もうすこし違う出会い方ならって思ってた事柄が根強くて。本当になくなってしまいたい承認欲求の末が、ハートマークで良かったって遺言零して。
今すぐの感情の吐露が弱いまま届いているんじゃないかって、雨の日に私が自分勝手に口走った言葉に素直に流されてるんじゃないかって。
この人の “ なにか ” になりたくて仕方なかった。