両手を広げるように白いタオルを向けられて、とりあえずローファーを脱ぐ。おとなしく了承をするとタオルで包むように抱きしめられてそのまま抱き上げられた。


鞄のちかくに置いたスマホの通知音が鳴って、思わず目を向ける。そんな私に眉を顰めてた成澤の顔を見てる暇もなくて。淡い水色が視界の端で止まって、それで。



「あの傘私のだよね?」

「貰いもんだから知らない」

「あげたわけじゃないんですけど」

「じゃ頂戴」

「気に入ってるから返してもらって良いですか」



廊下を足早に歩く成澤のおかげで、玄関のことなんて気に留めることもできない。足で雑にドアを開けた彼に見てるこっちが焦るのにまるで気にしていないからモヤモヤする。



「や、だ」



遅れて返答した成澤は小さい笑みを浮かべた。


脱衣所に着くなりおろされて、体を包んでいたタオルで髪を雑に拭き取られる。べつに初めてじゃないのに、こういうこと。初めてじゃないのに、ってモヤモヤが噛み砕けなくて。


髪をやさしく扱ってほしいんじゃない。ただずっと、すこしでも。何か都合のいい返事じゃなくていいからこの人の、近いところの棘を見せて欲しかった。


だから、とか後付けの理由を言わせないための。


何かしらの。



「成澤、」



顔を上げた私に影が落ちてくる。


それが何かしらの事で合図なら、まだ言って欲しくないってことなのかもしれない。


目を閉じれば温も冷も混ざったキスがぜんぶを塞き止めた。



「…っ、るさわ」



離れた隙に押し返そうと胸元を叩くけど、間近で見つめた黒い瞳が鋭利な光でこたえる。