1つのドアの前に立ち止まった成澤を後ろから覗き込むと、怪訝そうな表情で見下ろされた。



「なにそれ引くわー」

「家に連れ込もうとしてる人に言われたくないなあ」



そういう魂胆なんじゃん? って思うけど言わないなら言わないでいいのにこの人は極端すぎる。そこがいいよ変わらないでね、何度告げたかわからない。そうして来たの私だって無意識だったかも。


そうやってつけ込んできたから。優しい自分を押し売りして、成澤っていう人の律儀な居場所を突き止めて。


なんて。


そこは知らないでいてほしい。結局誰であっても見放されるって事柄は回避して出来るだけ良い面を撫でて、見せつけて存在したいのだ。


慣れたように差し込んでいた鍵を抜いた彼は、簡単に手放して玄関に進む。後に続けば、「鍵閉めといて」と背を向けたまま言った。



「ここで待ってればいい?」

「うん、ちょっとキッチン見てくるから」

「りょーかい〜」



靴をきれいに並べてスタスタと歩いて言った彼の、嘘を貫く言動がやっぱり歓喜を連れてくる。でもそんなことわざわざ暴いたって何にもならないからスルー。


興味無いフリして笑うなんてこと出来たらいちばん幸福なのかもしれないけど、それじゃあつまらないから煽って丁寧に温めて、ね。


待つ間はちょっと苦痛だから鞄を放ってスマホだけを取り出した。通知で埋め尽くされた画面をスワイプすれば、大親友の紗莉ちゃんのメッセージに目が止まる。



[ 口裏合わせ代、新作フラペチーノでよろしく。]



有り難い。