ようやく雨がすこし勢いを弱め、雲が引いていく。その代わりに顔を出す太陽のおかげで空気が熱されて肌があつい。熱い。まだ乾いていない雨に混ざる汗がきもちわるいのは仕方ないけど。



「バッカじゃないの、ほんと、もう」

「焦ってたんだよ。おまえの電話のせいで」



肩で息をする私に口元だけわらった成澤がそう言った。


エレベーターの浮遊感に体だけ浮かされて、でも走ったせいでぐわんぐわんしてる脳が弱い。久々に走ったせいで足が痛い、って軽い返しもできずに息を切らしてる。運動不足かも。


走ってる途中で水溜まりに気づかず踏んじゃったし、さらにびしょ濡れになったんだから成澤のほうこそ責任取るべきだ。



「はぁ、っ、もー歩きたくもない〜。成澤ぁ、ちょっと私のこと背負ってくれない?」

「やだよ、そんなん見られたら俺もうここに住めねーよ」

「シビアだね」

「俺まじめないい子ちゃんだから」



しゃがみこんで手すりにしがみついている私を見下ろす彼は、やっぱり当然みたいな顔して私に手を差し出してくる。これも配慮、かと思うけどいつものことだから気づかなかった。


軽快な音がして指定の階につくとエレベーターが止まり、扉が開く。手を引かれながら下りると証明がすこし眩しい。



「まじめないい子が女連れ込んでるって言われそうだよね、ここは。なんかいっつもキラキラしてるし皆お堅そう」

「廊下濡らしたらめんどくさそーだろ。ちなみに俺の家の隣の人、結構厳しい人らしいけど」

「騒音で怒られそうだね、今さらだけど」