ローファーがきもちわるくて離れると、彼はすこし複雑そうな顔をしていた。



「何、そのかおー。ビミョウだって言いたいの?」

「……いや、」

「今日歯切れ悪いね、いつもの成澤だったら締め技つかってくるのに」

「人を締め技常習犯みたいに言うなよ。締め技なんてつかったことねー」

「ああうん、ひ弱だもんね…」

「おまえにだけは言われたくない」



はぁ、と落ちてくるため息。何回ため息吐き出すのかカウントしていればよかった、とかそろそろ逃避じみてきた羞恥心がじわじわと上がってくる。


久々にやっちまったなー感がある、かなぁ。自分からキスなんて柄じゃない。柄じゃないけどフィルターかかっちゃったってことで済ませたい。



「いや舐めないでよ。私こう見えて頑丈な、」

「あーわかった、わかったから」

「何がわかったっていうんだよー」

「ちょっとほんと黙って」

「最近私に対して雑だよね」



羞恥心を拾われる前に目を逸らした。


成澤の手がつめたくてすこし安堵する。そのほうがバレないし、何もかも。でも気恥ずかしい何かしらの感情で頬に添えられていた手を剥がすと、その手が後頭部に回った。


すこし跳ねた心臓に声を我慢した隙、かたい何かが額に衝突する。それで、あたたかい音がした。



「びっ、くりしたー。何なの何なの、あんたの服濡れちゃうよ?」

「うん」

「や、うん、じゃなくてさっ。絶対私の話きーてないでしょ、ねぇ痛いし」

「うん」



うん、じゃない本当に。とか続ければよかった。


変に返答詰まってしまうとよくあるようなシリアスな空気流れちゃう。そんなシチュエーションに当てはまっても仕方ないよ、この状況はさ。