放課後になると俺はすぐに学校を飛び出した。
 まだ慣れない町ではあるけれど、駅までやってくれば何度か通って覚えた道に出る。それまではスマホの地図アプリのナビに従ってゆっくり歩きながら、景色を目に焼き付ける。
 住宅街だから目立つものはなかなかないが、古い建物が意外と多くてその一つ一つに個性がある。その中のどれかに的を絞って頭にたたき込みながら進んで行くが、しばらくはナビを手放せそうにないな。
 駅に着くとロータリーを通って反対側へ出たらジョギングくらいにペースをあげた。今日は冷える日だから走ることで身体が温まりちょうどいい感じになる。けど汗をかいて臭いって言われないように気をつけないと。
 そんな心配は無用で汗はほぼかくことなく目的地の北国総合病院に着いた。
 受付で面会手続きと入館証を受け取る。その時の看護師さんは結構会う人で「お久しぶりですね」と言われた。なんだかんだ最後にここに来たのは2か月前だ。よく覚えていたなと少し驚いた。
 エレベーターで5階にあがり、一番奥の病室に入る。6人部屋で一番奥にいるはずだけど、ベッドはもぬけの殻になっていた。だけどこれは予想できた。行く場所には心当たりがある、けど肝心の場所は行ったことがないから一旦受付へ場所を確認するために向かう。教えられたは別棟の一階にあった。病室があるところではなく、事務的な部屋が集まるところらしい。
 『リハビリステーション』と書かれた部屋のスライド式のドアを少し開けて中を覗くと、上にいなかったベッドの利用者である俺の妹の姿があった。二本の鉄の棒を両手で掴みながらゆっくり進み、リハビリトレーナーさんと思われる女性が付き添っている。
 頑張っている姿に安心して俺はドアを完全に引いた。
「星奈」
「ん?……あ、お兄ちゃん!」
 俺に気付いた星奈はこっちにこようとしたのか棒から手を離してしまった。そして膝が曲がり倒れそうになる。
「あぶない!」
 咄嗟にトレーナーさんが星奈の腕を掴んでくれて倒れるのを防いでくれた。それに俺も力が抜けた。
「もうだめじゃない。急に放しちゃ」
「ごめんなさい」
「少し休憩しようか」
「はい」
 気を利かせてくれたのか、すぐに部屋から出てしまった。
「お兄ちゃんこっちの学校は慣れた?」
「いや、まだ二日目だからなんとも」
「えぇ……。じゃあ友達できた?」
「友達は、まあ出来たよ」
 クラスメイトの域を出ていないけど、そこは誤魔化させてもらう。とにかく星奈には笑顔で居てもらいたい。もう辛い思いはしないでほしい。