校長室はどこも同じようで、壁に歴代の校長先生の写真が飾ってあり、真ん中に対面のソファー、一番奥には高そうな机と椅子が鎮座していた。俺たちがソファーの前まで来るとドアを閉めて机の後ろの椅子に座った。
「君たちも座りなさい」
促されて恐る恐る座った。
「生徒をあと二人待っててね。揃ったら話を始めるからもう少し待っていてくれ」
「あ、はい」
それ以降無言の時間が続いた。正直気まずい。変な空気じゃないはずなのに無言だとどうしても緊張する。
しかしそれは意外とすぐに解放された。
「失礼します。二年C組瀬戸菜摘です」
「どうぞ」
入って来たのは紺に近い青いショートヘアーで、少しきつい印象を受ける目をした女子生徒だった。ドアを閉めるとその前で直立したまま動かなくなった。
「好きにかけていいよ」
「はい」
そういわれると、ピシッとした無駄のない動きで俺の隣に立った。
「少しずれてもらえますか?」
ど真ん中に座っていたことを思いだし慌てて奥の方へずれた。
「ご、ごめん」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます。でも同い年だから敬語はいらないわ。私も敬語は使わないから」
「わ、わかった」
ハキハキとしながらも淡々とした印象の喋り方だ。まるで軍人と喋ってるみたいな感じがした。
「あの、どうして同学年ってわかったの?」
「え?……ああ、交換交流の人ね。ネクタイの色が学年で違うのよ。私達の学年は紺なの」
ネクタイを少し浮かしてアピールした。俺たちが着けているネクタイは紺色に水色のストライプが入ったタイプだ。
「あ、そうなんだ。ありがとう」
話し終わると前の一点を向いて何も話さなくなってしまった。まるで話は終わったと言わんばかりに。
また無言の時間が来てしまい変な緊張が走ったけどそれはすぐに終わった。
「し、失礼します。3年A組の本田実里です」
「どうぞ」
今度も女子生徒。だけどネクタイの色は暗い赤、多分エンジ色っていう奴だと思うものに、ピンクに近い白のストライプが入っていた。三年ということは先輩か。
「君も好きに掛けなさい」
「……はい」
彼女もドアを閉めると俺らの座るソファーへ来た。けど、俺と目が合ったらビクッと身体を震わせ、視線を逸らしたいけど逸らせないと言った気まずい感じをだしながら瀬戸さんの隣に座った。
「全員揃ったことだし始めようか。その前にまず明石君」
「はい」
「君が今朝職員室前で転倒した件の原因となったのが、今来た本田実里さんだ」
後ろを振り向き、ソファーで泣きそうになっている彼女を見た。
「あの後本田さんは君と金谷先生が転倒したことを知ってすぐに名乗り出て謝罪したいと申し出があったんだ。あれだけのことがあって、納得できないとは思うが、謝罪をさせてあげてくれないかな」
「わかりました」
正直言うと納得はしていない。けど、すぐに名乗り出たというのには驚いた。こういうことをする奴はだいたい逃げるし謝っても捕まった後だ。でもこの人は自分から謝りたいと言ったってことだから、それは受けるべきだと思った。
本田さん、いや本田先輩を向くと目には涙が溜まっていた。
「ごめんなさーい!!」
そしてそのまま泣き出してしまった。大きく一回頭を下げたが、そこからヘドバンのように頭を上下に振りながらの連続お辞儀が始まってしまった。
「本当にごめんなさい。編入してきた人がけがをしたって聞いて、けど保健室にもいなくて……とんでもないことをしてしまって本当にごめんなさい!!謝るの遅くなってごめんなさい」
「お、落ち着いてください。わかりました、わかりましたから。あと、俺怪我してません」
背中を強打したけど偶然受け身の体制が取れてたみたいで大事にはなっていなかったのだ。金谷先生も特に問題なく、俺にパンツを見られた以外のダメージはない。
「ほ、本当?」
怪我してないという言葉にピタリとヘドバンが止まった。
「本当です。保健室にも行きましたし、先生にも問題ないって言われました」
俺の言葉に安心したのか、本田先輩は膝をついた。
「良かった……」
と呟いた。
「本田先輩でしたっけ、お名前?」
「うん……本田実里」
「もう二度とあんないたずらしないでください。下手したら死にますよ」
「はい。本当にごめんなさい」
「なら……許します」
「ありがとうございます」
謝り方は大げさで、それだけ見ればパフォーマンスかと思ったかもしれない。けど、あの謝っている時の顔を見れば本当に反省してると思えたし、あの涙もウソ泣きとは思えなかった。何か取返しのつかないことにはなっていないから、許すことにした。
「明石君、それでいいんだね?」
「はい」
「うん。本田さん。明石君も言っていたが、これに懲りたら二度といたずらなんて真似はしないように」
「はい。申し訳ありませんでした」
本田先輩は今度は校長に向かって深々と頭を下げた。
「ではこの件は終わりにして、本題に入ろう。まず瀬戸さんは年度初めに問題行動を起こし罰を受け、本田さんは今の件で明日より罰を受ける。正直、起こしたことがことなだけに内申が大きく減らして進路に大きな悪影響があると思われる」
瀬戸さんが何をしたのかはわからないけど本田先輩のしたことは確かに悪影響は間違いない。
「毎年問題を起こす生徒はどうしても出てしまうし、大抵は逃げて、謝罪も渋々といった者たちがほとんどだ。しかし君たち二人はすぐに被害を与えてしまった人に謝罪し、反省の色も見え、相手から許しも出た。本来なら当たり前なのだが最近はそれも出来ない人が増えてる中で正しい行動できる君たちに希望を感じた。そこで君たちに救済の機会を与えようと思う」
「本当ですか!?」
黙って話を聞いていた瀬戸さんが急に立ち上がった。びっくりして後ろにのけぞってしまう。
「あ、ごめんなさい。大丈夫」
「うん、大丈夫」
「よかった」
というより、俺と本田先輩は立ったままだったのもよくはなかった。瀬戸さんの両隣に再び座ってから校長先生が話をつづけた。
「と言っても具体的には何も決まっていなくてね。ただ、何かの活動をしてもらい結果を出してもらう」
本当に何も決まっていないな。だけどそれならなぜ俺はなんでここにいるんだ?
「その活動に関しては君たちで自由に決めてもらって構わない。もちろんこちらもいい案があれば出す。できれば、君たちで自分たちの力でやってくれた方がありがたい。ただ既に結果を出したものとは被らないようにしてほしい。それが注意点だ」
「校長先生、結果を出すと言いましたが、その結果の基準は何でしょうか?」
「例えるなら……そうだな、野球部ならうちの学校は開校以来地方大会ベスト8にも到達していないから、ベスト8に入ってもらうとかだね。後は美術ならコンクールで入賞といったところだ。ボランティアでも表彰されれば結果になる。要するに何かの形で残るようなことをしてほしい」
「……分かりました」
「あの……校長先生。明石君も参加するのですか?」
金谷先生が俺の疑問を聞いてくれた。
「それなんだが……結論から言うと明石君もこの活動に参加して欲しい」
「え!?」
「納得できないのはわかる。本来明石君はこの活動に参加する理由はない。だが、これは教頭の目を誤魔化すためなんだ」
「教頭先生の目を誤魔化すため、ですか?」
すると校長先生は椅子から立ち上がり俺たちの座るソファーへ早歩きで向かってきて、小さく集まるよう指示した。
「これから話すことは他言無用で頼む。本来なら君たちに話す内容ではないが、明石君が巻き込まれてしまっている以上関係のある君たちには話さざるを得ないんだ。そこを理解して欲しい」
深刻な表情をしていたので、ただ事ではない気がしてまた緊張してきた。いくら当事者とはいえ聞いていいのか?瀬戸さんや本田先輩もまさに聞いていいのかと顔に書いてあるかのような表情になっていた。けど、聞かないことには活動に参加させられることに納得は出来ないから聞くことにした。
校長の内容は衝撃を覚えるもので、なんとあの教頭先生に犯罪の疑いが掛かっているというものだった。その内容は職員用の女子更衣室の盗撮。ゴールデンウイーク前に職員用の女子更衣室に入っていく教頭先生が目撃され、それを校長先生に相談したことが始まりだった。普通ならすぐ警察へ通報するけど、その生徒が見たのは更衣室から距離があり、遠目で見た感じだったのでもしかしたら隣にある男子更衣室と間違えた可能性もあるから一旦学校で調査してから警察に連絡となった。その日の夜に三年学年主任の女性の先生同伴で例の更衣室を確認すると床に置かれた段ボールに入ったカメラが発見された。すぐに警察に連絡したが、カメラはセットしたさいスイッチがうまく入っていなかったのか電源が起動していなかった。当然何も映っていなかったが、段ボールに入ってたとはいえ明らかに盗撮目的だと断定できたため教頭が正当な理由なく女子更衣室に入った可能性が出て来たというわけだ。ちなみにカメラと段ボールは警察が調べたけどカメラと段ボール共に誰の指紋も出なかったらしい。
「あのエロオヤジ最低!?」
「本田さんシー!!」
先輩はハッとして手で口を塞いだ。だけどなんて奴だ。もしこれが生徒にも伝わったら女子なんか気が気じゃない。
「ごめんなさい」
「平気だ。教頭はしばらく戻らん。話は戻すが、教頭のターゲットはおそらく金谷先生だと思われる」
「わ、私ですか!?」
「あー多分当たってると思うよ……あ、思いますよ。だって教頭のカナヤ……じゃなくて金谷先生を見る目がいやらしいので絶対気があると思います」
「私もそう思います。あのブルーヘッドの金谷先生に向ける視線は気持ち悪いです」
女子二人から嫌悪感をたっぷり含んだ意見が出て来た。
「最悪……」
外部の意見を聞いて金谷先生は震えてしまった。こんな時男は何も出来なくて歯がゆい。
「ん?ってことは俺に無理やり罰を与えようとしたのって、俺が金谷先生のパンツを見たことを逆恨みしたってことですか」
「その可能性が高い」
「ふざけんなよ!」
そんな理由で罰を与えられてたまるか。訴えれば勝てるぞこれ。
「だが、教頭もなかなか尻尾を掴ませなくてね」
しかも以前も似たような騒ぎを起こしたことがあったそうだ。二年前の話でその時はある男子生徒がふざけてるときにたまたま通りかかった金谷先生にぶつかった時に胸を鷲掴みしてしまったことがあった。その時も謝罪とお説教こそあったけど、ちゃんと和解した。にもかかわらず罰を与えようとしたらしい。
「その時は罰は与えなかったんだが、その男子生徒はなぜか退学してしまったんだ」
「うわっ、怪しいですね。……あれ?それってなんか噂になってませんでしたっけ?」
二年前と言えば本田先輩は一年生だから知っててもおかしくはないな。
「もしかしたら教頭が何かした可能性もある。残念だがそれを証明することが出来ず、迷宮入りしてしまった。そして明石君も何か罰を与えないとまた教頭が何かする危険がある。そこで明石君を守るためにこの活動へ罰として参加してもらおうというわけなんだ。それに、思い通りになれば油断するかもしれない。そういう意図もある」
なるほど。犯罪をやらかしてる危険のある人物だから、思い通りにならないと何しでかすかわからないっていうのは可能性としてはある。
「もちろん、ただでとは言わない。実は君の家庭環境を教えてもらってね。そこも考慮し、君の場合はこの活動に参加するだけで内申をプラスしよう。当然、結果を出せば二人と同じ分の内申も出す。どうかな?」
それは魅力的だ。俺は特待生の推薦進学を狙っているからその提案はスゲーありがたい。
「わかりました。受けさせていただきます」
「ありがとう。そして本当にうちの職員が申し訳ない。改めて学校を代表して謝罪する」
また深々と頭を下げられてしまった。
「頭を上げてください。大丈夫です。むしろありがとうございます」
そして最後に今日の件で本田先輩は明日から停学三日となり、来週から復帰することになる。なので来週の月曜日から活動がスタートすることになった。
結構時間を喰ったが、それでもみんな待っててくれた。案内されたのはカラオケで地元にもあるチェーン店なのに、地元よりも安いことにびっくりした。中も地元とそんなに変わらないのでお得感がすごかった。
そのあとにみんなとファミレスで食事をした。なんで呼び出されたのかを聞かれたからどう話そうか少し悩んだが、うまく教頭の件以外をうまく話した。そうしたらまた同情された。やっぱり本田先輩はいたずら好きで有名らしいが人を転ばすのは男の先生から逃げるときのみで、普段のいたずらは教師のスクープを取ってきては暴露するというパパラッチみたいなことをしていたみたい。今日も掲示板に本田新聞と称してガタイの良い体育の先生が、この近くにあるケーキ屋に勤めている女性に思いを寄せていて毎日通っている所を激写してスクープしたところ追いかけられたというのが真相らしい。
いくら和解したとはいえ、あの人に秘密は握られないようにしようと心の中でこっそり誓った。
「君たちも座りなさい」
促されて恐る恐る座った。
「生徒をあと二人待っててね。揃ったら話を始めるからもう少し待っていてくれ」
「あ、はい」
それ以降無言の時間が続いた。正直気まずい。変な空気じゃないはずなのに無言だとどうしても緊張する。
しかしそれは意外とすぐに解放された。
「失礼します。二年C組瀬戸菜摘です」
「どうぞ」
入って来たのは紺に近い青いショートヘアーで、少しきつい印象を受ける目をした女子生徒だった。ドアを閉めるとその前で直立したまま動かなくなった。
「好きにかけていいよ」
「はい」
そういわれると、ピシッとした無駄のない動きで俺の隣に立った。
「少しずれてもらえますか?」
ど真ん中に座っていたことを思いだし慌てて奥の方へずれた。
「ご、ごめん」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます。でも同い年だから敬語はいらないわ。私も敬語は使わないから」
「わ、わかった」
ハキハキとしながらも淡々とした印象の喋り方だ。まるで軍人と喋ってるみたいな感じがした。
「あの、どうして同学年ってわかったの?」
「え?……ああ、交換交流の人ね。ネクタイの色が学年で違うのよ。私達の学年は紺なの」
ネクタイを少し浮かしてアピールした。俺たちが着けているネクタイは紺色に水色のストライプが入ったタイプだ。
「あ、そうなんだ。ありがとう」
話し終わると前の一点を向いて何も話さなくなってしまった。まるで話は終わったと言わんばかりに。
また無言の時間が来てしまい変な緊張が走ったけどそれはすぐに終わった。
「し、失礼します。3年A組の本田実里です」
「どうぞ」
今度も女子生徒。だけどネクタイの色は暗い赤、多分エンジ色っていう奴だと思うものに、ピンクに近い白のストライプが入っていた。三年ということは先輩か。
「君も好きに掛けなさい」
「……はい」
彼女もドアを閉めると俺らの座るソファーへ来た。けど、俺と目が合ったらビクッと身体を震わせ、視線を逸らしたいけど逸らせないと言った気まずい感じをだしながら瀬戸さんの隣に座った。
「全員揃ったことだし始めようか。その前にまず明石君」
「はい」
「君が今朝職員室前で転倒した件の原因となったのが、今来た本田実里さんだ」
後ろを振り向き、ソファーで泣きそうになっている彼女を見た。
「あの後本田さんは君と金谷先生が転倒したことを知ってすぐに名乗り出て謝罪したいと申し出があったんだ。あれだけのことがあって、納得できないとは思うが、謝罪をさせてあげてくれないかな」
「わかりました」
正直言うと納得はしていない。けど、すぐに名乗り出たというのには驚いた。こういうことをする奴はだいたい逃げるし謝っても捕まった後だ。でもこの人は自分から謝りたいと言ったってことだから、それは受けるべきだと思った。
本田さん、いや本田先輩を向くと目には涙が溜まっていた。
「ごめんなさーい!!」
そしてそのまま泣き出してしまった。大きく一回頭を下げたが、そこからヘドバンのように頭を上下に振りながらの連続お辞儀が始まってしまった。
「本当にごめんなさい。編入してきた人がけがをしたって聞いて、けど保健室にもいなくて……とんでもないことをしてしまって本当にごめんなさい!!謝るの遅くなってごめんなさい」
「お、落ち着いてください。わかりました、わかりましたから。あと、俺怪我してません」
背中を強打したけど偶然受け身の体制が取れてたみたいで大事にはなっていなかったのだ。金谷先生も特に問題なく、俺にパンツを見られた以外のダメージはない。
「ほ、本当?」
怪我してないという言葉にピタリとヘドバンが止まった。
「本当です。保健室にも行きましたし、先生にも問題ないって言われました」
俺の言葉に安心したのか、本田先輩は膝をついた。
「良かった……」
と呟いた。
「本田先輩でしたっけ、お名前?」
「うん……本田実里」
「もう二度とあんないたずらしないでください。下手したら死にますよ」
「はい。本当にごめんなさい」
「なら……許します」
「ありがとうございます」
謝り方は大げさで、それだけ見ればパフォーマンスかと思ったかもしれない。けど、あの謝っている時の顔を見れば本当に反省してると思えたし、あの涙もウソ泣きとは思えなかった。何か取返しのつかないことにはなっていないから、許すことにした。
「明石君、それでいいんだね?」
「はい」
「うん。本田さん。明石君も言っていたが、これに懲りたら二度といたずらなんて真似はしないように」
「はい。申し訳ありませんでした」
本田先輩は今度は校長に向かって深々と頭を下げた。
「ではこの件は終わりにして、本題に入ろう。まず瀬戸さんは年度初めに問題行動を起こし罰を受け、本田さんは今の件で明日より罰を受ける。正直、起こしたことがことなだけに内申が大きく減らして進路に大きな悪影響があると思われる」
瀬戸さんが何をしたのかはわからないけど本田先輩のしたことは確かに悪影響は間違いない。
「毎年問題を起こす生徒はどうしても出てしまうし、大抵は逃げて、謝罪も渋々といった者たちがほとんどだ。しかし君たち二人はすぐに被害を与えてしまった人に謝罪し、反省の色も見え、相手から許しも出た。本来なら当たり前なのだが最近はそれも出来ない人が増えてる中で正しい行動できる君たちに希望を感じた。そこで君たちに救済の機会を与えようと思う」
「本当ですか!?」
黙って話を聞いていた瀬戸さんが急に立ち上がった。びっくりして後ろにのけぞってしまう。
「あ、ごめんなさい。大丈夫」
「うん、大丈夫」
「よかった」
というより、俺と本田先輩は立ったままだったのもよくはなかった。瀬戸さんの両隣に再び座ってから校長先生が話をつづけた。
「と言っても具体的には何も決まっていなくてね。ただ、何かの活動をしてもらい結果を出してもらう」
本当に何も決まっていないな。だけどそれならなぜ俺はなんでここにいるんだ?
「その活動に関しては君たちで自由に決めてもらって構わない。もちろんこちらもいい案があれば出す。できれば、君たちで自分たちの力でやってくれた方がありがたい。ただ既に結果を出したものとは被らないようにしてほしい。それが注意点だ」
「校長先生、結果を出すと言いましたが、その結果の基準は何でしょうか?」
「例えるなら……そうだな、野球部ならうちの学校は開校以来地方大会ベスト8にも到達していないから、ベスト8に入ってもらうとかだね。後は美術ならコンクールで入賞といったところだ。ボランティアでも表彰されれば結果になる。要するに何かの形で残るようなことをしてほしい」
「……分かりました」
「あの……校長先生。明石君も参加するのですか?」
金谷先生が俺の疑問を聞いてくれた。
「それなんだが……結論から言うと明石君もこの活動に参加して欲しい」
「え!?」
「納得できないのはわかる。本来明石君はこの活動に参加する理由はない。だが、これは教頭の目を誤魔化すためなんだ」
「教頭先生の目を誤魔化すため、ですか?」
すると校長先生は椅子から立ち上がり俺たちの座るソファーへ早歩きで向かってきて、小さく集まるよう指示した。
「これから話すことは他言無用で頼む。本来なら君たちに話す内容ではないが、明石君が巻き込まれてしまっている以上関係のある君たちには話さざるを得ないんだ。そこを理解して欲しい」
深刻な表情をしていたので、ただ事ではない気がしてまた緊張してきた。いくら当事者とはいえ聞いていいのか?瀬戸さんや本田先輩もまさに聞いていいのかと顔に書いてあるかのような表情になっていた。けど、聞かないことには活動に参加させられることに納得は出来ないから聞くことにした。
校長の内容は衝撃を覚えるもので、なんとあの教頭先生に犯罪の疑いが掛かっているというものだった。その内容は職員用の女子更衣室の盗撮。ゴールデンウイーク前に職員用の女子更衣室に入っていく教頭先生が目撃され、それを校長先生に相談したことが始まりだった。普通ならすぐ警察へ通報するけど、その生徒が見たのは更衣室から距離があり、遠目で見た感じだったのでもしかしたら隣にある男子更衣室と間違えた可能性もあるから一旦学校で調査してから警察に連絡となった。その日の夜に三年学年主任の女性の先生同伴で例の更衣室を確認すると床に置かれた段ボールに入ったカメラが発見された。すぐに警察に連絡したが、カメラはセットしたさいスイッチがうまく入っていなかったのか電源が起動していなかった。当然何も映っていなかったが、段ボールに入ってたとはいえ明らかに盗撮目的だと断定できたため教頭が正当な理由なく女子更衣室に入った可能性が出て来たというわけだ。ちなみにカメラと段ボールは警察が調べたけどカメラと段ボール共に誰の指紋も出なかったらしい。
「あのエロオヤジ最低!?」
「本田さんシー!!」
先輩はハッとして手で口を塞いだ。だけどなんて奴だ。もしこれが生徒にも伝わったら女子なんか気が気じゃない。
「ごめんなさい」
「平気だ。教頭はしばらく戻らん。話は戻すが、教頭のターゲットはおそらく金谷先生だと思われる」
「わ、私ですか!?」
「あー多分当たってると思うよ……あ、思いますよ。だって教頭のカナヤ……じゃなくて金谷先生を見る目がいやらしいので絶対気があると思います」
「私もそう思います。あのブルーヘッドの金谷先生に向ける視線は気持ち悪いです」
女子二人から嫌悪感をたっぷり含んだ意見が出て来た。
「最悪……」
外部の意見を聞いて金谷先生は震えてしまった。こんな時男は何も出来なくて歯がゆい。
「ん?ってことは俺に無理やり罰を与えようとしたのって、俺が金谷先生のパンツを見たことを逆恨みしたってことですか」
「その可能性が高い」
「ふざけんなよ!」
そんな理由で罰を与えられてたまるか。訴えれば勝てるぞこれ。
「だが、教頭もなかなか尻尾を掴ませなくてね」
しかも以前も似たような騒ぎを起こしたことがあったそうだ。二年前の話でその時はある男子生徒がふざけてるときにたまたま通りかかった金谷先生にぶつかった時に胸を鷲掴みしてしまったことがあった。その時も謝罪とお説教こそあったけど、ちゃんと和解した。にもかかわらず罰を与えようとしたらしい。
「その時は罰は与えなかったんだが、その男子生徒はなぜか退学してしまったんだ」
「うわっ、怪しいですね。……あれ?それってなんか噂になってませんでしたっけ?」
二年前と言えば本田先輩は一年生だから知っててもおかしくはないな。
「もしかしたら教頭が何かした可能性もある。残念だがそれを証明することが出来ず、迷宮入りしてしまった。そして明石君も何か罰を与えないとまた教頭が何かする危険がある。そこで明石君を守るためにこの活動へ罰として参加してもらおうというわけなんだ。それに、思い通りになれば油断するかもしれない。そういう意図もある」
なるほど。犯罪をやらかしてる危険のある人物だから、思い通りにならないと何しでかすかわからないっていうのは可能性としてはある。
「もちろん、ただでとは言わない。実は君の家庭環境を教えてもらってね。そこも考慮し、君の場合はこの活動に参加するだけで内申をプラスしよう。当然、結果を出せば二人と同じ分の内申も出す。どうかな?」
それは魅力的だ。俺は特待生の推薦進学を狙っているからその提案はスゲーありがたい。
「わかりました。受けさせていただきます」
「ありがとう。そして本当にうちの職員が申し訳ない。改めて学校を代表して謝罪する」
また深々と頭を下げられてしまった。
「頭を上げてください。大丈夫です。むしろありがとうございます」
そして最後に今日の件で本田先輩は明日から停学三日となり、来週から復帰することになる。なので来週の月曜日から活動がスタートすることになった。
結構時間を喰ったが、それでもみんな待っててくれた。案内されたのはカラオケで地元にもあるチェーン店なのに、地元よりも安いことにびっくりした。中も地元とそんなに変わらないのでお得感がすごかった。
そのあとにみんなとファミレスで食事をした。なんで呼び出されたのかを聞かれたからどう話そうか少し悩んだが、うまく教頭の件以外をうまく話した。そうしたらまた同情された。やっぱり本田先輩はいたずら好きで有名らしいが人を転ばすのは男の先生から逃げるときのみで、普段のいたずらは教師のスクープを取ってきては暴露するというパパラッチみたいなことをしていたみたい。今日も掲示板に本田新聞と称してガタイの良い体育の先生が、この近くにあるケーキ屋に勤めている女性に思いを寄せていて毎日通っている所を激写してスクープしたところ追いかけられたというのが真相らしい。
いくら和解したとはいえ、あの人に秘密は握られないようにしようと心の中でこっそり誓った。