それから何の進展もなかった。
学校の方は瀬戸さんの話で持ち切りだった。ただ瀬戸さんのことを悪く言うというより、信じたらいいのかわからないって感じだ。
一年生はともかく、二年生はその事件を知っているから、すぐに謝ったことも和解したことも知っている。けど、瀬戸さんの性格を考えると、疑われる要素はあると思ってしまう。
けど俺は違うと思っている。そのためには早く疑いを晴らしたい。できるかどうかわからないけど、このままは嫌だ。
放課後、先輩と二人で校長先生と交渉をしてなんとか瀬戸さんに会うことを許された。
瀬戸さんの家に行くと、瀬戸さんのお母さんが出迎えてくれた。聞いていた通り、女性としては大柄だけど、とても優しそうで何より瀬戸さんそっくりだった。
「菜摘、部活の人たちが来たわよ」
反応がなかった。
「瀬戸ちゃん。私、実里だよ。少し話したいなって思ってきたんだ」
部屋の中で少し音が聞こえた。
「あの、瀬戸さん。心配で、その」
ガチャッ
扉が開いて4日ぶりに瀬戸さんの姿を見た。
痩せてはいなかったから少し安心したけど、目には隈ができてしまい、髪も綺麗だったショートが見る影もないくらいにボサボサになっていた。
「入ってください」
瀬戸さんに覇気のない声で促された。けど受け入れてくれたことは嬉しかった。
女の子の部屋に入るのは小学校を卒業して以来だ。けど瀬戸さんの部屋はミリタリー関係のモノと武道で使う道具類が置かれて、女の子の部屋って感じではなかった。
「よく来ましたね。こんな人の地雷を踏みにじる女のところに」
言葉が明らかに卑屈になっている。思ったよりもまずいかも
「そんなこと言わないでよ。瀬戸ちゃんの事心配で」
「心配される筋合いありません」
「そんな……」
「瀬戸さん。俺たち……」
「フフフ。これは罰なの、本当のね」
罰?それならもう受けたはずだ。
「どういうこと瀬戸ちゃん?」
「これは私が二人を利用してきたことの罰です」
「利用?」
ますます意味が解らない。
「私には夢がありました。立派な両親に育ててもらって、人のために頑張っている両親を見て私もそうなりたいって。でも明確なビジョンはありませんでした。けどいい大学へ行って選択肢を増やせるようにしておこうと考えました」
そこからトーンが落ち始めた。
「でも去年、私は自分の価値観を押し付けてしまった。嫌がることはするなという教えに反した。それだけでなく知らなかったとはいえ彼の心の傷をほじくり返す真似をしたんです。そして罰を受けた。行きたかったところも、これで絶望的になりました。」
「だったらそれでおしまいなんじゃ」
「違うわ!……五月に校長先生に呼ばれて行ったら救済措置をしてくれると言ってくれました。曖昧だけど、結果を残せば内申が回復してまた夢を追えるって希望が見えました。そして活動が始まったけど何も決まらず焦った。でも明石君が鉄道模型を提案してくれた。そこから積極的な振りをして答えを出させ私はタダ乗りしてた。例えばレイアウトのコンセプト。二人が同じ場所に思い入れがあるって聞いてピンときた。でも私が提案していいものじゃなかった。人の思い出を汚した私が、思い出で自分の欲を満たそうとするなんて。でもそれを提案すればレイアウトの方針が固まる。そうすれば早く行動に移せて結果も残せる確率が上がる。そう考えた」
なるほど、思い出にトラウマがある瀬戸さんがなんで思い出を提案したのかの謎が解けた。そのことに関してはそうなのかもしれない。でも思った。
「違うぞ」
「は?」
「全然違うよ。というか俺ら利用されてないじゃん。そう思うのは、今昔の過ちを蒸し返されて卑屈になっているからであって瀬戸さんの行動は普通そのものじゃん」
そう。瀬戸さんの言ったことはどれをとっても普通のことだった。それを悪い方に勝手に思い込んでいるだけで。
「いや、その」
「そうそう。聞いてたけど私達全然被害食ってなくて途中で笑いそうになっちゃったよ」
「そんな、私は!」
「大丈夫。瀬戸さんは悪くないから。あの噂だってデマだから」
「その証拠はあるの?」
「あるっていうか、瀬戸さんやってないんでしょ?」
「……」
「こんなのおかしいよ。これを受け入れちゃったら犯人の思うつぼだよ。というか、悪事を見過ごすのかな?」
「それは瀬戸さんらしくないっていうか、瀬戸さんの信念に反するんじゃないかな?」
「……」
それ以降黙ってしまった。でも帰り際に少しだけ見えた口角は上がっていた。それがいい方なのか悪い方なのかはわからないけど、いい方であってほしい
学校の方は瀬戸さんの話で持ち切りだった。ただ瀬戸さんのことを悪く言うというより、信じたらいいのかわからないって感じだ。
一年生はともかく、二年生はその事件を知っているから、すぐに謝ったことも和解したことも知っている。けど、瀬戸さんの性格を考えると、疑われる要素はあると思ってしまう。
けど俺は違うと思っている。そのためには早く疑いを晴らしたい。できるかどうかわからないけど、このままは嫌だ。
放課後、先輩と二人で校長先生と交渉をしてなんとか瀬戸さんに会うことを許された。
瀬戸さんの家に行くと、瀬戸さんのお母さんが出迎えてくれた。聞いていた通り、女性としては大柄だけど、とても優しそうで何より瀬戸さんそっくりだった。
「菜摘、部活の人たちが来たわよ」
反応がなかった。
「瀬戸ちゃん。私、実里だよ。少し話したいなって思ってきたんだ」
部屋の中で少し音が聞こえた。
「あの、瀬戸さん。心配で、その」
ガチャッ
扉が開いて4日ぶりに瀬戸さんの姿を見た。
痩せてはいなかったから少し安心したけど、目には隈ができてしまい、髪も綺麗だったショートが見る影もないくらいにボサボサになっていた。
「入ってください」
瀬戸さんに覇気のない声で促された。けど受け入れてくれたことは嬉しかった。
女の子の部屋に入るのは小学校を卒業して以来だ。けど瀬戸さんの部屋はミリタリー関係のモノと武道で使う道具類が置かれて、女の子の部屋って感じではなかった。
「よく来ましたね。こんな人の地雷を踏みにじる女のところに」
言葉が明らかに卑屈になっている。思ったよりもまずいかも
「そんなこと言わないでよ。瀬戸ちゃんの事心配で」
「心配される筋合いありません」
「そんな……」
「瀬戸さん。俺たち……」
「フフフ。これは罰なの、本当のね」
罰?それならもう受けたはずだ。
「どういうこと瀬戸ちゃん?」
「これは私が二人を利用してきたことの罰です」
「利用?」
ますます意味が解らない。
「私には夢がありました。立派な両親に育ててもらって、人のために頑張っている両親を見て私もそうなりたいって。でも明確なビジョンはありませんでした。けどいい大学へ行って選択肢を増やせるようにしておこうと考えました」
そこからトーンが落ち始めた。
「でも去年、私は自分の価値観を押し付けてしまった。嫌がることはするなという教えに反した。それだけでなく知らなかったとはいえ彼の心の傷をほじくり返す真似をしたんです。そして罰を受けた。行きたかったところも、これで絶望的になりました。」
「だったらそれでおしまいなんじゃ」
「違うわ!……五月に校長先生に呼ばれて行ったら救済措置をしてくれると言ってくれました。曖昧だけど、結果を残せば内申が回復してまた夢を追えるって希望が見えました。そして活動が始まったけど何も決まらず焦った。でも明石君が鉄道模型を提案してくれた。そこから積極的な振りをして答えを出させ私はタダ乗りしてた。例えばレイアウトのコンセプト。二人が同じ場所に思い入れがあるって聞いてピンときた。でも私が提案していいものじゃなかった。人の思い出を汚した私が、思い出で自分の欲を満たそうとするなんて。でもそれを提案すればレイアウトの方針が固まる。そうすれば早く行動に移せて結果も残せる確率が上がる。そう考えた」
なるほど、思い出にトラウマがある瀬戸さんがなんで思い出を提案したのかの謎が解けた。そのことに関してはそうなのかもしれない。でも思った。
「違うぞ」
「は?」
「全然違うよ。というか俺ら利用されてないじゃん。そう思うのは、今昔の過ちを蒸し返されて卑屈になっているからであって瀬戸さんの行動は普通そのものじゃん」
そう。瀬戸さんの言ったことはどれをとっても普通のことだった。それを悪い方に勝手に思い込んでいるだけで。
「いや、その」
「そうそう。聞いてたけど私達全然被害食ってなくて途中で笑いそうになっちゃったよ」
「そんな、私は!」
「大丈夫。瀬戸さんは悪くないから。あの噂だってデマだから」
「その証拠はあるの?」
「あるっていうか、瀬戸さんやってないんでしょ?」
「……」
「こんなのおかしいよ。これを受け入れちゃったら犯人の思うつぼだよ。というか、悪事を見過ごすのかな?」
「それは瀬戸さんらしくないっていうか、瀬戸さんの信念に反するんじゃないかな?」
「……」
それ以降黙ってしまった。でも帰り際に少しだけ見えた口角は上がっていた。それがいい方なのか悪い方なのかはわからないけど、いい方であってほしい