部室には集まったけど、何も手が付けられない。
 瀬戸さんが心配だった。それは先輩も先生も同じだと思う。
 せっかくここまで来て、二回もスタートラインに戻って、三度目の正直だと思って今日から始められそうだったのに。
「瀬戸さんの様子を見に行きたいんですけど」
 本当に無意識にその言葉が出た。
「無理よ。今瀬戸さんと接触するのはよくないわ」
「……すいません」
 また無言の状態が続いた。
「私、瀬戸ちゃんは暴力は振るってないと思う」
「え?」
「私は二回だけ、言われたこと守らなかったから耳引っ張られたりしたことはあったけど殴られたり蹴られたりはしてないし」
 それも暴力に入る可能性ないか?そんな心配を口にしそうになったけど、喉の手前で押し戻した。
「あ、その、俺はまだわかりません。けど、暴力を振るうようには思えないです」
「それだけじゃないよ。多分この中で一番力について理解しているのは瀬戸ちゃんだよ」
「どういうことです?」
「前話してたでしょ、瀬戸ちゃんお父さん自衛隊だって」
「はい」
「前話してくれたんだけどね、お母さんは武道家なんだって」
「凄い家系ですね」
 先輩が前遊びに行ったときに瀬戸さんが話してくれたことだそうだ。
「瀬戸ちゃん小さい頃からお母さんのやってた合気道とか剣道とかやってるし、お父さんからもむやみやたらに力を振るうなって厳命されてたって言ってた。だからよっぽどのことがない限り瀬戸ちゃんが暴力を振るうなんて信じられない!」
 珍しく先輩が抗議するかのように大声を上げる。
「いったい誰よ瀬戸ちゃんを見えない位置から攻撃して。卑怯だよ」
 先輩の言葉のチョイスはともかく言いたい事には賛成だ。こんなことして何になる。
 例の男子生徒が何らかの理由で恨みが再燃した?
「先生、その男子生徒ってその後どうなったんですか?」
「え。転校していったわよ。場所は教えられないけど、ヒントとしていうなら本州じゃないってことだけね」
 だとしたら多分違うかもな。その男子生徒のことはわからないから何とも言えないけど、俺が同じ立場だったらやらない。仮に恨みがぶり返してもそんな離れたところから攻撃したって何のメリットもない。そもそも転校したってことは関わりたくないってことだと思うから、そんなことをする意味なんてないんじゃないか?
「あーもうムカつく!」
 今日は何も出来ずに部活は終わった。帰っても何もする気が起きず、ただ瀬戸さんのことだけを考えていた。