学校に行くと妙にざわついていた。
昇降口から階段、廊下にいるほぼ全員が何かの噂話で持ち切りになっているようだ。
教室に着くとやはり同じようにクラスメイトが噂話をしていた。だけど一つだけ違うのは俺を見た瞬間全員が駆け寄って来たことだった。
「明石君ちょっといい」
「え?」
「昨日瀬戸さんは部活にいた?」
「いや、ちょうどひと段落してみんな疲れがたまってたから休みにしたんだ。学校でも会ってないし」
先輩はたまに俺の教室に遊びに来て場合によっては一緒にお昼を食べたりするが、瀬戸さんは部活以外ほぼ関わりがない。また土日に瀬戸さんを遊びに誘ってどこかに行くことはあるみたいだけど、瀬戸さんから遊びに誘われることはないとこの前先輩が言っていた。あまり人と関わりたがらないタイプだと思うし、どこまで干渉していいか線引きが難しいのが今のところだ。
「ところで、瀬戸さんがどうかしたの?」
「それが……」
「明石君!?」
クラスメイトがこれから話してくれそうな時、先輩が大慌てで入って来た。
「今すぐ一緒に校長室に来て!」
「わ、わかりました。ごめんみんな」
引っ張られながら謝ると体制を整えて校長室へ向かった。
校長室には校長先生と金谷先生も待っていた。
「明石君、本田さん。待っていたよ」
久々に会った校長先生はいつもはどっしりしているけど、今日は落ち着かないように思えた。
「二人に来てもらったのはほかでもない。瀬戸さんのことは聞いているね?」
「はい」
「あの、僕はまだです。来たら噂話をしているのは見ましたけど、内容までは」
「あ、それ私が話をする前に連れてきちゃったんです」
「な、なるほど。だが、彼の場合ある意味その方が良かったのかもしれん」
「え?」
「まずは噂話の内容から話そう」
校長先生は一呼吸おいてから話始めた
結論から言うと、噂話の内容は瀬戸さんが新たに暴力事件を起こしていたというものだった。
新たにというのがどういうことか聞くと、そもそもの話、この救済の部活に瀬戸さんが参加することになったのは去年の12月に発覚した暴言の数々、世間だとパワハラと言われるようなことを繰り返していたということだった。
そっちの内容は、瀬戸さんは風紀委員会で委員長を務めていた。瀬戸さんは12月のある日、図書委員からの依頼でなかなか期間内に本を返さない男子生徒を注意して欲しいと頼まれ、注意しに行った。その男子生徒は瀬戸さんを軽くあしらおうとしたけど、真面目な瀬戸さんは当然引き留め注意をした。そのまま男子生徒と瀬戸さんの口喧嘩が始まってそれがエスカレート、瀬戸さんが正義感から暴走してしまい、口喧嘩から一方的に罵声を浴びせる形になってしまった。それが原因で男子生徒が心を病んでしまい、しかも浴びせた罵声の中にその生徒が気にしていたことがあり、大きな問題となってしまった。というものだった。
その結果瀬戸さんは停学一週間になった。その理由はまず男子生徒が期限内に本を返さないことを繰り返していたこと。そもそもこれがなければ起きなかった。もう一つは瀬戸さんがすぐに謝りに行ったことだった。
「それと、その男子生徒にはある過去があってね」
それはなぜ本を返さなかったかというと勉強していたから。その男子生徒の家はあまり裕福な家庭ではなく、本を多く買うのが難しいそうだ。加えてバイト禁止なのでなおさらだ。ちなみに学費は払える、大学へ行く資金はなんとか出せるだけの経済力はあったからバイトの許可が出なかったそうだ。
また、その生徒がなかなか本を返さなかったのは内容をきちんと理解できるまで借りていたかったということだった。ちょっと異常に見えるまで勉強に打ち込んでいたのにはわけがあった。
男子生徒には好きだった幼馴染の女の子がいたけど、中学時代に頭のいい別の男と付き合ってしまった。彼自身も学力はあって学年一桁に入るほどで、この学校でも学年一桁に入っていたそうだ。だけどもっと上の男に取られた挙句にその女の子からひどい言葉を受けてしまった。その悔しさから勉強の鬼になっていたそうだ。
で、瀬戸さんはどうやらその女の子に言われたこととほぼ同じことを言ってしまったそうだ。そしてその女の子との思い出であるアクセサリーをつけていることをバカにするような言い方をしたことで、大切にしていたものを踏みにじることになった。これがきっかけで病んでしまったそうだ。
「その後瀬戸さんは後で中学時代のことを知り、何度も家へ謝りに行った。許すつもりはなかったけどあまりにもしつこいから学校で話し合いが行われた。そこで泣いて謝る瀬戸さんを見て生徒本人が何を思ったのかもういいと和解に応じたんだ」
「そうだったんですか」
だから頑なに思い出を入れるのを拒否してたのか……あれ?でも思い出を切り出したのも瀬戸さんだ。
って今はそうじゃない。
「でも、それは終わった話だったんですよね」
「ああ。それが突然ネット上で今の話に酷似したことを言ったうえで、『それだけじゃなく暴力も振るわれた』と告白していた」
「そんな」
「それが所謂学校裏サイトみたいなものにも出回って噂話につながるというわけだ。瀬戸さんは今日は一旦自宅待機にしてある。まずこれが事実かどうか再調査しなくてはならないからな。で、君たちに関係のある部活についてだ」
そうだ。俺たちに関係あるのは部活だ。
「部活動としては禁止はしないが、瀬戸さんの活動は認めない。要するに君たち二人でならOKということだ」
「……わかりました」
「とにかく、今は我々に任せてくれたまえ」
「……はい」
「すまない」
重い脚を上げて校長室を後にし、先輩と並んで歩いているのにお互い何もしゃべらずに教室へ向かった。
昇降口から階段、廊下にいるほぼ全員が何かの噂話で持ち切りになっているようだ。
教室に着くとやはり同じようにクラスメイトが噂話をしていた。だけど一つだけ違うのは俺を見た瞬間全員が駆け寄って来たことだった。
「明石君ちょっといい」
「え?」
「昨日瀬戸さんは部活にいた?」
「いや、ちょうどひと段落してみんな疲れがたまってたから休みにしたんだ。学校でも会ってないし」
先輩はたまに俺の教室に遊びに来て場合によっては一緒にお昼を食べたりするが、瀬戸さんは部活以外ほぼ関わりがない。また土日に瀬戸さんを遊びに誘ってどこかに行くことはあるみたいだけど、瀬戸さんから遊びに誘われることはないとこの前先輩が言っていた。あまり人と関わりたがらないタイプだと思うし、どこまで干渉していいか線引きが難しいのが今のところだ。
「ところで、瀬戸さんがどうかしたの?」
「それが……」
「明石君!?」
クラスメイトがこれから話してくれそうな時、先輩が大慌てで入って来た。
「今すぐ一緒に校長室に来て!」
「わ、わかりました。ごめんみんな」
引っ張られながら謝ると体制を整えて校長室へ向かった。
校長室には校長先生と金谷先生も待っていた。
「明石君、本田さん。待っていたよ」
久々に会った校長先生はいつもはどっしりしているけど、今日は落ち着かないように思えた。
「二人に来てもらったのはほかでもない。瀬戸さんのことは聞いているね?」
「はい」
「あの、僕はまだです。来たら噂話をしているのは見ましたけど、内容までは」
「あ、それ私が話をする前に連れてきちゃったんです」
「な、なるほど。だが、彼の場合ある意味その方が良かったのかもしれん」
「え?」
「まずは噂話の内容から話そう」
校長先生は一呼吸おいてから話始めた
結論から言うと、噂話の内容は瀬戸さんが新たに暴力事件を起こしていたというものだった。
新たにというのがどういうことか聞くと、そもそもの話、この救済の部活に瀬戸さんが参加することになったのは去年の12月に発覚した暴言の数々、世間だとパワハラと言われるようなことを繰り返していたということだった。
そっちの内容は、瀬戸さんは風紀委員会で委員長を務めていた。瀬戸さんは12月のある日、図書委員からの依頼でなかなか期間内に本を返さない男子生徒を注意して欲しいと頼まれ、注意しに行った。その男子生徒は瀬戸さんを軽くあしらおうとしたけど、真面目な瀬戸さんは当然引き留め注意をした。そのまま男子生徒と瀬戸さんの口喧嘩が始まってそれがエスカレート、瀬戸さんが正義感から暴走してしまい、口喧嘩から一方的に罵声を浴びせる形になってしまった。それが原因で男子生徒が心を病んでしまい、しかも浴びせた罵声の中にその生徒が気にしていたことがあり、大きな問題となってしまった。というものだった。
その結果瀬戸さんは停学一週間になった。その理由はまず男子生徒が期限内に本を返さないことを繰り返していたこと。そもそもこれがなければ起きなかった。もう一つは瀬戸さんがすぐに謝りに行ったことだった。
「それと、その男子生徒にはある過去があってね」
それはなぜ本を返さなかったかというと勉強していたから。その男子生徒の家はあまり裕福な家庭ではなく、本を多く買うのが難しいそうだ。加えてバイト禁止なのでなおさらだ。ちなみに学費は払える、大学へ行く資金はなんとか出せるだけの経済力はあったからバイトの許可が出なかったそうだ。
また、その生徒がなかなか本を返さなかったのは内容をきちんと理解できるまで借りていたかったということだった。ちょっと異常に見えるまで勉強に打ち込んでいたのにはわけがあった。
男子生徒には好きだった幼馴染の女の子がいたけど、中学時代に頭のいい別の男と付き合ってしまった。彼自身も学力はあって学年一桁に入るほどで、この学校でも学年一桁に入っていたそうだ。だけどもっと上の男に取られた挙句にその女の子からひどい言葉を受けてしまった。その悔しさから勉強の鬼になっていたそうだ。
で、瀬戸さんはどうやらその女の子に言われたこととほぼ同じことを言ってしまったそうだ。そしてその女の子との思い出であるアクセサリーをつけていることをバカにするような言い方をしたことで、大切にしていたものを踏みにじることになった。これがきっかけで病んでしまったそうだ。
「その後瀬戸さんは後で中学時代のことを知り、何度も家へ謝りに行った。許すつもりはなかったけどあまりにもしつこいから学校で話し合いが行われた。そこで泣いて謝る瀬戸さんを見て生徒本人が何を思ったのかもういいと和解に応じたんだ」
「そうだったんですか」
だから頑なに思い出を入れるのを拒否してたのか……あれ?でも思い出を切り出したのも瀬戸さんだ。
って今はそうじゃない。
「でも、それは終わった話だったんですよね」
「ああ。それが突然ネット上で今の話に酷似したことを言ったうえで、『それだけじゃなく暴力も振るわれた』と告白していた」
「そんな」
「それが所謂学校裏サイトみたいなものにも出回って噂話につながるというわけだ。瀬戸さんは今日は一旦自宅待機にしてある。まずこれが事実かどうか再調査しなくてはならないからな。で、君たちに関係のある部活についてだ」
そうだ。俺たちに関係あるのは部活だ。
「部活動としては禁止はしないが、瀬戸さんの活動は認めない。要するに君たち二人でならOKということだ」
「……わかりました」
「とにかく、今は我々に任せてくれたまえ」
「……はい」
「すまない」
重い脚を上げて校長室を後にし、先輩と並んで歩いているのにお互い何もしゃべらずに教室へ向かった。