夜学校の課題を片付けていると電話が鳴った。相手は母さんだった
「もしもし」
『星夜、明日学校終わったら時間あるかしら?』
「いや、部活あるけど」
『だよね……』
「どうしたの」
『明日星奈が外泊できることになったのよ』
「本当!」
 ここ最近の星奈の回復はすさまじい勢いでもしかしたら退院が早くなるかもとお医者さんが言うほどだった。こういう日ももうすぐかなと待っていたけど予想よりも早くてびっくりしている。でも、それは星奈の頑張りの成果だな。
『日程はこれから決めるなるわ。で、明日その説明があるんだけどどうしても私もお父さんも休めそうになくて代わりに行ってほしいのよ』
 両親は会社にお願いして時間を作ろうとしたけど予想外の繁忙に入ってしまったらしくい。なんとか星奈の外泊の日は休みをもらえたけど、さらに説明のためとはいえ休まれるのは困ると言われてしまったそうだ。
「わかった。確認してみる」
『ごめんね』
「ちなみにいつになるの?」
『星夜の休みに合わせることになると思う。できたら土日がいいわね』
「土日なら部活も休みだから大丈夫」
『なら次の土日から話してみて頂戴』
「わかった」
 電話を切るとメッセージのグループに明日休みの連らくを入れた。
【星奈が外泊できるようになりました。その説明を聞きに行きたいため明日はお休みしてもいいですか?両親はどうしても仕事を休むことができなかったそうなので僕が行くことになりました】
 5秒もしないうちに既読が着いた。
【え、本当!よかったじゃん いいよ】
 先輩だった。文字の後ろにグッドの絵文字とやったーのスタンプが続いた。
 そして既読がもう一つ増えてこっちもすぐにメッセージが来た。
【了解。行ってきなさい】
 瀬戸さんからもOKをもらえた。けどそのあとに可愛いキャラクターのスタンプが続いた。あんまりスタンプを使うイメージがなかったからびっくりした。
【ありがとうございます】
 お礼のメッセージを送って母さんにもOKがでたことを伝えた。

 学校が終わってすぐ病院へ向かった。受付で主治医の先生(星奈の手術をしたお医者さんとは違う、この病院の常勤の人)が緊急の手術が入ってしまったらしく、予定よりも遅くなる可能性があると伝えられた。また本来主治医の先生が行っていた外来を代わりの先生がしているため場所がなく、違う場所で行うことになった。
 本当なら星奈のところに行きたいけどいつ呼ばれるかわからないからおいそれと離れるわけにもいかなかった。仕方なく誰も座っていないベンチを選んで座り鉄道模型の動画を見て復習しながら先生を待った。
「明石君。お待たせしました。こちらへどうぞ」
 動画が一本見終わったちょうどいいタイミングで主治医の先生が俺を呼んだ。息を切らしていて急いできたんだなっていうのが丸わかりだった。お疲れ様です
「失礼します」
 診察室に入ってすぐに説明が始まった。
 星奈はまだ完全回復ではないけど現状は補助なし車いすなしで移動できるようになってきた。もちろん移動する際には誰かが常にいないといけないが、ここまで動けるようになったなら病院に閉じ込められるのはストレスだろうと思われ、トレーナーさんにタイミングをうかがっていて、一昨日ようやくそのOKサインが出て外泊が許され、親に連絡が行った。
「で、明石君たちの家は確か静岡でしたよね?」
「はい」
「さすがに遠いから、星夜君が今下宿しているアパートでの許可になるけど、大丈夫かな?」
 まあ当然の話だ。いくらもう病気の方は心配ないと言っても遠く離れたところまで行かせることはできないし、無茶して体調崩したら元も子もない。
「はい。まだ親には聞いてませんが、多分そのつもりだと思います」
「わかりました。ではそのようにお伝えください」
「わかりました」
「次に日程ですけど、いつにしますか?」
「早くて次の土曜から日曜です」
「土曜から日曜ですね」
 希望を聞いた先生はパソコンのカレンダーを出してそれと書類を交互に見て何かを打ち込んで行った。
「大丈夫ですね。では今度の土日に外泊を正式に許可します」
「ありがとうございます」
 話が終わり、診察室を後にして星奈のところへ向かった。今日も病室にはいなかったからおそらくリハビリだな。可愛い顔ではあるけど活発だから動けるようになってじっとしていられないのかもしれない。
 予想通りリハビリテーションにいた。今は休憩中のようでトレーナーさんと離れて座っていた。
「星奈」
「あ、お兄ちゃん」
 座ったまま手をぶんぶん振りはじめた。トレーナーさんに挨拶をして星奈の隣に座る。
「今度お兄ちゃんの部屋に泊まりに行くね」
「あ、星奈にも話は行ってたのか」
「うん」
 いや、本人に伝えててもおかしくはないな。
「でもよく俺の部屋ってわかったな」
「だって家までは遠いから無理だよ。だったらお兄ちゃんの部屋しかないじゃん」
 それ以外選択肢はないから答えはでるのは当たり前か。
「でも楽しみだな。お兄ちゃんの部屋」
「いや、何もねえぞ。安いアパートだし」
「それはそれで楽しみなの。それにエッチな本とか探したいし」
「あっても星奈が来る前に全部売りに出すわ」
「えー!」
 持ってないけど星奈にエロ本が見つかった日には次の日俺の身体は宙に浮いていることだろう。
「ん、待て。お前病気になるまえ俺の部屋家探ししてないだろうな?」
 たこ口で明後日の方を向いて吹けてもいない口笛を吹く動作を取った。
「よし、退院前祝いにケーキを買おうと思ったけどやめにしよう」
「ごめんなさい!!」
 こんなやり取りも久しぶりだ。だいぶ前の星奈に戻って来た気がする。手術が終わってからリハビリ初期までは痛みがなくなったとはいえ前の星奈の半分も明るさがなかった。リハビリで動けるようになるのに比例して気持ちも戻って来たのかな。
 気づくと夕焼けが広がり、面会終了を知らせるBGMが流れていた。
「じゃあそろそろ行くな」
「うん。次はお兄ちゃんの部屋だね」
「その前に病院に迎えに行くよ」
「そうだった!」
 トレーナーさんに再度挨拶をして帰った。母さんに連絡して今度の土日が外泊日に決まったことを伝え、部活のグループにも土日になったことを伝え、部活に影響はないことを伝えた。
「さて、片さないとな」
 模型関係のもので散らかってしまっていて、このままじゃ星奈はもちろん親も呼べない。掃除に関しては母さんはうるさいからきちんとしておかないとな。そして
「これは売らないとな……」
 有言実行。三崎学園の友達から譲ってもらったものだけど、星奈に見られるわけにはいかないので古本屋へ行ってお金に変えよう。
 すまん安芸。お前の宝は星になったのだ。