一晩あるゆるところを探したけどやっぱり都合のいいバイトはなかった。明け方近くまで探したせいで寝不足になって急遽座学になった体育で初日に先輩を追いかけてたと思われるおっかない先生の前で鼻提灯を作るところだった。起こしてくれた隣の吉川さんに感謝だ。
「すみません。日直で遅れました」
「明石君!あったよバイト」
「え、本当ですか!?」
「本当だよ。これ見て」
見せてくれたのは喫茶店のポスターだった。
「ここ、私のお母さんの友達がやってるところでね」
先輩の話によると、この喫茶店は駅から15分ほどのところにあるこのあたりでは結構有名な店で、創作ショートケーキと紅茶が人気。休日には行列が出来ることもあるらしい。
人気店だからバイトも人気なんだけど5月に学生さんのほとんどの人が学校の用事が重なってしまい、一ヶ月夕方がとんでもない人手不足になってしまった。
今月が終わればその学生さんたちも復帰するようで、一ヶ月のために雇ってしまうと来月以降過剰人員になってしまう。だから雇うに雇えなくて困っていた。ということらしい。
「昨日家にたまたまその店主さんが居て、そうとは知らずに今の部活のことを喋ったら是非来てほしいって。で、まだ校長先生の許可が取れてないから、今日話し合って答えを出すねって言ってあるんだ」
「すぐに交渉に行きましょう。双方に取ってメリットしかありません。お店は一ヶ月だけの補填ができ、私たちは必要以上にバイトすることはありません。明石君!」
「もちろんOKだ」
いい意味で不意打ちに近い形で舞い込んだチャンスだ。絶対に手にしたい。
「すぐにアルバイト許可申請書を作ります」
校長先生の許可を取り付けなければもう詰んだと思ったほうがいい。
バイトの理由は部活での資金を稼ぐため、場所は喫茶店『太陽の花』、バイトの期間は一ヶ月限りで目標額の15万円(ギリギリではなく余裕を持たせるために少し多めに設定した)を稼げた段階で退職する。
「これで書類はOK」
後は校長先生と交渉するだけだけど、金谷先生が来ないと交渉の席にすらつけないよ
「おまたせー」
『先生!』
「うわっ。どうしたの?」
バイトが見つかったことを話すと先生も頬が緩んできて
「やったじゃない。すぐ校長先生に話をしてくる」
と飛び出していった。
そして5分もしないうちに戻ってきた。
「OKだって」
「行きましょう」
全員がドタドタと音を立てて校長室へと向かった。
「お忙しいところ何度もすみません」
「大丈夫だよ。アルバイトの件だね?」
「はい」
持ってきた少しシワのついてしまった申請書を校長の前へ提出する。
「この申請書よく見つけましたね」
「金谷先生が見つけてくれました。僕は存在すら知りませんでしたから助かりました」
「金谷先生が……なるほど。では拝見しよう」
胸ポケットに入っていたメガネをつけて申請書を見始めた。金谷先生の予想を信じて見つけたバイトだ。祈るように校長先生を見つめた。
時間にすればホンの少しなんだろうけど、すごく長く感じる。校長先生の目を俺は追い続けた。いい反応なのか、悪い反応なのかつぶさに観察するけど、表情はあまり動かない。張り詰めるような空気が室内を支配する。
そしてやっと校長先生は申請書を机に置いた
「負けたよ。君たちの目標への執念に驚いた。この申請書にある期間のみ、特別に許可をだそう」
待ちに待った言葉に顔を上げた。少し呆然としてしまったけど、徐々にこみ上げるモノがあった。
『ありがとうございます』
全員が立ち上がって頭を下げた。
「ただし一つだけ条件をつける。この許可は部活で使うお金が足りないことで申請している。つまり君たちの遊びのためではない。だから給料が支払われたらすぐに金谷先生に預けること。いいね」
『はい』
それについては異論はないし、遊ぶ暇なんて多分ないはずだ。
「校長先生、本当にありがとうございます」
金谷先生も改めて頭を下げてお礼を言った。
「生徒が頑張りに水を差すわけには行きませんからね。それに、昨日設計図を見たときから私も興味が湧きましてな。是非ともいいものを作ってくれたまえ」
『はい』
校長室を後にし、すぐに先輩がお店へ連絡した。するとすぐにお店で面接する流れになった。一応OKだけど、俺と瀬戸さんはまだあったこともないから確認の意味で面接をしたいとのことだった。
「当然だわな」
「私たちおいしい話に簡単に食いついてたわね」
焦っていたとはいえもう少しよく考えて行動しようと心に決めた。
バイト先となる喫茶店につくと店主さんが出迎えてくれた。
店主さんはかなりの美人で顔は細長い形で目が大きい印象だ。ただ若干ツリ目なのできつくも感じだ。あとは髪が長くて、多分背中まであると思うけど、今はポニーテールにして結んでいる。そして頭のてっぺんに立つアホ毛が気になってしょうがなかった。これで40代とは驚きだぞ。
「初めまして。私が店主の出羽日向子です」
声は意外と低かった。アルトまでは行かないかもしれないけど、顔からのイメージとは違った。
「初めまして、明石星夜といいます。よろしくお願いします」
「瀬戸菜摘と申します。よろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いします。では早速面接を始めますね」
面接と言っても少しお話するだけだった。ある程度は本田先輩から聞いていたみたいで本当にその通りか確認したかったって感じだ。
「では正式に採用します。一ヶ月の短い間だけど、改めてよろしくお願いします」
次に書類を何枚か書いて最初の出勤日を決める。全員が揃ってる方がいいということで、明日から早速入ることに決めた。
「では明日からお願いします」
「はい」
これでわかっている問題は片がついた。後はバイトでお金を貯めることができれば、ようやくスタートラインに立つことができる。先はまだまだ長いが、今は目の前のことを頑張るぞ。
「すみません。日直で遅れました」
「明石君!あったよバイト」
「え、本当ですか!?」
「本当だよ。これ見て」
見せてくれたのは喫茶店のポスターだった。
「ここ、私のお母さんの友達がやってるところでね」
先輩の話によると、この喫茶店は駅から15分ほどのところにあるこのあたりでは結構有名な店で、創作ショートケーキと紅茶が人気。休日には行列が出来ることもあるらしい。
人気店だからバイトも人気なんだけど5月に学生さんのほとんどの人が学校の用事が重なってしまい、一ヶ月夕方がとんでもない人手不足になってしまった。
今月が終わればその学生さんたちも復帰するようで、一ヶ月のために雇ってしまうと来月以降過剰人員になってしまう。だから雇うに雇えなくて困っていた。ということらしい。
「昨日家にたまたまその店主さんが居て、そうとは知らずに今の部活のことを喋ったら是非来てほしいって。で、まだ校長先生の許可が取れてないから、今日話し合って答えを出すねって言ってあるんだ」
「すぐに交渉に行きましょう。双方に取ってメリットしかありません。お店は一ヶ月だけの補填ができ、私たちは必要以上にバイトすることはありません。明石君!」
「もちろんOKだ」
いい意味で不意打ちに近い形で舞い込んだチャンスだ。絶対に手にしたい。
「すぐにアルバイト許可申請書を作ります」
校長先生の許可を取り付けなければもう詰んだと思ったほうがいい。
バイトの理由は部活での資金を稼ぐため、場所は喫茶店『太陽の花』、バイトの期間は一ヶ月限りで目標額の15万円(ギリギリではなく余裕を持たせるために少し多めに設定した)を稼げた段階で退職する。
「これで書類はOK」
後は校長先生と交渉するだけだけど、金谷先生が来ないと交渉の席にすらつけないよ
「おまたせー」
『先生!』
「うわっ。どうしたの?」
バイトが見つかったことを話すと先生も頬が緩んできて
「やったじゃない。すぐ校長先生に話をしてくる」
と飛び出していった。
そして5分もしないうちに戻ってきた。
「OKだって」
「行きましょう」
全員がドタドタと音を立てて校長室へと向かった。
「お忙しいところ何度もすみません」
「大丈夫だよ。アルバイトの件だね?」
「はい」
持ってきた少しシワのついてしまった申請書を校長の前へ提出する。
「この申請書よく見つけましたね」
「金谷先生が見つけてくれました。僕は存在すら知りませんでしたから助かりました」
「金谷先生が……なるほど。では拝見しよう」
胸ポケットに入っていたメガネをつけて申請書を見始めた。金谷先生の予想を信じて見つけたバイトだ。祈るように校長先生を見つめた。
時間にすればホンの少しなんだろうけど、すごく長く感じる。校長先生の目を俺は追い続けた。いい反応なのか、悪い反応なのかつぶさに観察するけど、表情はあまり動かない。張り詰めるような空気が室内を支配する。
そしてやっと校長先生は申請書を机に置いた
「負けたよ。君たちの目標への執念に驚いた。この申請書にある期間のみ、特別に許可をだそう」
待ちに待った言葉に顔を上げた。少し呆然としてしまったけど、徐々にこみ上げるモノがあった。
『ありがとうございます』
全員が立ち上がって頭を下げた。
「ただし一つだけ条件をつける。この許可は部活で使うお金が足りないことで申請している。つまり君たちの遊びのためではない。だから給料が支払われたらすぐに金谷先生に預けること。いいね」
『はい』
それについては異論はないし、遊ぶ暇なんて多分ないはずだ。
「校長先生、本当にありがとうございます」
金谷先生も改めて頭を下げてお礼を言った。
「生徒が頑張りに水を差すわけには行きませんからね。それに、昨日設計図を見たときから私も興味が湧きましてな。是非ともいいものを作ってくれたまえ」
『はい』
校長室を後にし、すぐに先輩がお店へ連絡した。するとすぐにお店で面接する流れになった。一応OKだけど、俺と瀬戸さんはまだあったこともないから確認の意味で面接をしたいとのことだった。
「当然だわな」
「私たちおいしい話に簡単に食いついてたわね」
焦っていたとはいえもう少しよく考えて行動しようと心に決めた。
バイト先となる喫茶店につくと店主さんが出迎えてくれた。
店主さんはかなりの美人で顔は細長い形で目が大きい印象だ。ただ若干ツリ目なのできつくも感じだ。あとは髪が長くて、多分背中まであると思うけど、今はポニーテールにして結んでいる。そして頭のてっぺんに立つアホ毛が気になってしょうがなかった。これで40代とは驚きだぞ。
「初めまして。私が店主の出羽日向子です」
声は意外と低かった。アルトまでは行かないかもしれないけど、顔からのイメージとは違った。
「初めまして、明石星夜といいます。よろしくお願いします」
「瀬戸菜摘と申します。よろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いします。では早速面接を始めますね」
面接と言っても少しお話するだけだった。ある程度は本田先輩から聞いていたみたいで本当にその通りか確認したかったって感じだ。
「では正式に採用します。一ヶ月の短い間だけど、改めてよろしくお願いします」
次に書類を何枚か書いて最初の出勤日を決める。全員が揃ってる方がいいということで、明日から早速入ることに決めた。
「では明日からお願いします」
「はい」
これでわかっている問題は片がついた。後はバイトでお金を貯めることができれば、ようやくスタートラインに立つことができる。先はまだまだ長いが、今は目の前のことを頑張るぞ。