全員が運転体験できたところで、次は値段と始めるにあたって必要なものを調べる。
「すみません、全くの初心者が鉄道模型を始めるには何を揃えたらいいですか?」
 ブースから出たところを店員さんに質問する。
「そうですね。まずどんなレイアウトでも必要なものですと……」
 店員さんが商品棚の方へ移動したので俺たちもついていく。
 基本的には工具の類だった。カッターや精密ドライバー、ニッパー、定規などでほとんどは部室にあったものがそのまま使えそうだ。
 次に必要なのは接着アイテム。接着剤もゴム系、ゼリー系、プラ版を使うもの専用のもの、プラモデル用の接着剤、瞬間接着剤と種類は豊富。あと、ボンドを水に溶かして使うこともあるからスポイトもあるといいらしい。
 こんなにあるのは使う素材によって使い分けられるようなので、きちんと調べないといけない。
 後は色付けのスプレーや絵の具、それを塗るための筆などがあるといいと教えてくれた。
「ちなみにレイアウトのプランってありますか?」
「山奥の集落を作ろうと思っています」
「ではローカル線がメインって感じになりますね」
 また別の棚へ移動するのでまたついて行った。
「山ならこれは欠かせませんね」
 四角くて分厚い水色の板を手に取った。
「発泡スチロールでできた板です。これは土台で使い、地形作りに適しています」
 これをカッターで削って地形を作るみたいだ。
「お金をかけないやり方だと発泡スチロールや新聞紙で大まかな形を作って、それをこの……プラスターで覆うというやり方もあります」
 プラスターはなんか目の粗い包帯みたいなものだった。
「あと、線路ですね。ローカル線の線路は」
 他にも川を作るときの絵の具やスプレー、トンネルの入り口、山に生えてる草木に使う教えてくれた。
「あの、それと夜景を再現したいとかんがえているんですけど」
「夜景ですか?」
「はい」
「夜景となると電球が必要になりますね」
 不思議そうな顔をしながら店員さんはまた移動した。店員さんが取ってくれたのはLED電球12個入りとパワーパックのセットだった。だけど値段は4500円。多分安い方なんだろうけど、数を揃えるとなるとお金の問題がでてくるな。
「ありがとうございます」
「よければこの本を買っていってください。結構わかりやすくて人気なんですよ」
 タイトルは『Nゲージ入門・鉄道模型の大事典』。パラパラとめくると今店員さんが言ってくれたことが書いてあるっぽい。
「ありがとうございます。これ買います」
「ありがとうございます」
 2000円近くしたけど、あるのとないのとでは雲泥の差だ。
「あの、これって無料のやつですか?」
 瀬戸さんが持っていたのはジオラマの材料カタログで、表紙に無料とは書いてある
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
 本とカタログ、それから先輩がちゃっかりもらってきた無料配布の『ジオラマ作成』というパンフレットという戦利品を持って学校へ戻った。
 しかし運転体験を思いっきり楽しんでしまったせいか下校時刻ギリギリの到着になってしまった。
「明日は鉄道模型の勉強とできたらレイアウトの設計だな」
「了解」

 アパートに戻ると母さんに電話をかけた。あることをお願いするためにかけるんだけど、この一週間俺が付き合いで連絡する暇がなかったりこっちからかけても仕事が忙しいのか出なかったりしてなかなか予定が合わなくて、星奈がコケたときに鬼電のごとく何回もかけて繋いだ時くらいしか話せていない。だからそろそろゆっくり話がしたかった。
『星夜、やっとかけてきた』
 母さんの抗議と呆れの混じった声が鼓膜に直撃しそうな勢いを持って響いた。
「ごめん母さん。いろいろと忙しくて」
『忙しいって何?あ、お友達とか?でもそれにしたって遅くない?』
「ちゃんと説明するから」
 編入初日の事件から部活をすることになったことを詳しく話した。最初のラッキースケベのくだりは笑っていたけど、部活をすることになり、模型を作るという話になると静かに聞いてくれた。
「だから前原集落の資料が欲しくて、そのために俺の部屋にある写真を送ってほしいんだ」
「なるほどね。わかった、明日送るよ」
「ありがとう」
「私も何かあったと思うからそれも一緒に送るわ」
「助かる」
 これでなんとか前原集落の写真は手に入る。これで設計もやりやすくなるはずだ。
 それからは部活以外の近況や、母さんたちの今の状況、星奈の様子などを結構な時間話した。なんだかんだ一週間とはいえ離れて暮らしていると、母さんの声は安心するな。
「じゃあ明日もあるから、お休み」
「お休み、頑張りなさい。星奈と約束したなら、変なモノ作るんじゃないよ。もちろん、ワガママを許してもらった他の部員の子のためにも」
「わかってる。じゃ」
 電話を切って布団の上に寝転んだ。
 母さんからエールをもらい、自然と力が湧いてくる感覚を感じる。
「楽しみだな。ってもうこんな時間!!」
 時計は23時になろうとしていた。慌てて夕飯と風呂を済ませ、布団に入って明日に備えた。