「雲母さんは本日、検査のため面会を行っておりません」
受付の看護師に伝えられ、病院を出た。茹だる様な晴天に思わず空を仰ぐと、小さな火の玉がめらめらと燃え盛っている。いつでもそこに佇んでいるのはすごく傲慢だ。
俺が超能力者なら、今すぐにその偉そうなまん丸のど真ん中を穿ってやるのに。そんな妄想に更け、病院を後にする。
わざわざ現像したみかん畑の写真を彼女に見せたかったのだけれども、仕方がない。いつになるか分からないが、近いうちに検査を受けることは彼女から事前に聞いていた。それが今日だったのは運が悪い。
しかし、今日はもう一つ用事があったから、家を出たのは無駄足とは言わないで済む。
途中、花屋に立ち寄り、何本か包んでもらう。種類はいつも店員に任せる。今回も墓花だと伝えたら、すんなりと選んでもらえた。
色とりどりに何種類か選定して纏めてくれたけれど、生憎と菊しか分からない。
海沿いの風が強い場所に、母親は眠っている。お盆休み前ということもあってか、人はかなりまばらだ。というか、全然いない。
手桶に水を汲みながら思う。夏の墓参りは結構しんどい。墓石が太陽を反射するせいで、余計に気温が高く感じる。夏の墓場に陽炎は付き物だ。
遠くの方で海鳥が高く鳴いている。
通りがかりの墓石にひまわりが添えられていた。
変なの、と一瞬思ったけれど、中々にセンスが良い。菊なんかより、ずっと映えている。見た目が良ければなんて言うつもりはないけれど、ひまわりを墓花に選んだ人は、きっとここで眠る人のことをずっと、ずっと、大切に思っているのだろう。そうでなかったら、普通はひまわりを墓花になんて考えもしないはずだ。
俺は母親の墓花を自ら選んだことは無い。供え物だって、持って来ないことの方が多い。
母親が好きだった花なんて、俺は知らない。
柄杓で水を掬い、墓石に頭からかけた。
まだ、四年と少ししか経っていないはずなのに、どうしてか母親が亡くなってからの月日はとても長く感じる。あの事故がもうずっと昔のことようだ。
多分、色々なことがあったし、ずっと苦しいせいだ。とにかく、毎日が腐ったように重たい。世界の色彩がどこか薄暗くて、味気ない。
「薄暗いだけなら、マシなのかもな……」
きっと、母親は何のことだ、と首を傾げているに違いない。
「四年って長いよな」
墓花を添え、持ってきたマッチで線香に火を付ける。一筋の煙が立ち昇り、強い潮風に煽られた。いつだって、いなくなるのは一瞬だ。そんなことを言われているようだった。
「なあ、俺、部活辞めようと思うんだ」
もちろん、眼前の墓石からの返事はなかった。
受付の看護師に伝えられ、病院を出た。茹だる様な晴天に思わず空を仰ぐと、小さな火の玉がめらめらと燃え盛っている。いつでもそこに佇んでいるのはすごく傲慢だ。
俺が超能力者なら、今すぐにその偉そうなまん丸のど真ん中を穿ってやるのに。そんな妄想に更け、病院を後にする。
わざわざ現像したみかん畑の写真を彼女に見せたかったのだけれども、仕方がない。いつになるか分からないが、近いうちに検査を受けることは彼女から事前に聞いていた。それが今日だったのは運が悪い。
しかし、今日はもう一つ用事があったから、家を出たのは無駄足とは言わないで済む。
途中、花屋に立ち寄り、何本か包んでもらう。種類はいつも店員に任せる。今回も墓花だと伝えたら、すんなりと選んでもらえた。
色とりどりに何種類か選定して纏めてくれたけれど、生憎と菊しか分からない。
海沿いの風が強い場所に、母親は眠っている。お盆休み前ということもあってか、人はかなりまばらだ。というか、全然いない。
手桶に水を汲みながら思う。夏の墓参りは結構しんどい。墓石が太陽を反射するせいで、余計に気温が高く感じる。夏の墓場に陽炎は付き物だ。
遠くの方で海鳥が高く鳴いている。
通りがかりの墓石にひまわりが添えられていた。
変なの、と一瞬思ったけれど、中々にセンスが良い。菊なんかより、ずっと映えている。見た目が良ければなんて言うつもりはないけれど、ひまわりを墓花に選んだ人は、きっとここで眠る人のことをずっと、ずっと、大切に思っているのだろう。そうでなかったら、普通はひまわりを墓花になんて考えもしないはずだ。
俺は母親の墓花を自ら選んだことは無い。供え物だって、持って来ないことの方が多い。
母親が好きだった花なんて、俺は知らない。
柄杓で水を掬い、墓石に頭からかけた。
まだ、四年と少ししか経っていないはずなのに、どうしてか母親が亡くなってからの月日はとても長く感じる。あの事故がもうずっと昔のことようだ。
多分、色々なことがあったし、ずっと苦しいせいだ。とにかく、毎日が腐ったように重たい。世界の色彩がどこか薄暗くて、味気ない。
「薄暗いだけなら、マシなのかもな……」
きっと、母親は何のことだ、と首を傾げているに違いない。
「四年って長いよな」
墓花を添え、持ってきたマッチで線香に火を付ける。一筋の煙が立ち昇り、強い潮風に煽られた。いつだって、いなくなるのは一瞬だ。そんなことを言われているようだった。
「なあ、俺、部活辞めようと思うんだ」
もちろん、眼前の墓石からの返事はなかった。