好きという気持ちを隠さない、確実に伝えるために橋沼は田中に触れることが多くなった。
そこには唇へのキスも含まれていて、胸が煩いほど騒ぎ体が熱くなる。
しかも嫌だと思わない自分がいたりもするのだ。
好いてもらえることは嬉しいけれど、周りにばれた時のことを考えると怖い。
今日は昼に部活のミーティングがあるから、美術室が使えず昼も一緒にいられないと橋沼から連絡を受けていた。
それならたまには屋上にと袋を下げて向かったのだが、そこには先客がいた。
「あっ」
互いに声を上げてさすがに一緒にご飯というつもりはないので離れて座ろうとしたが、どうして葉月しかいないのかが気になった。
「なぁ、神野は」
つい声をかけてしまったが、
「女子につかまった。だから先にきて食べている」
普通に返してくれた。
「そうか。話しかけてわるかったな」
ここは葉月が停学になるきっかけを作った場所だ。しかも弁当を踏みつけてしまった。嫌な思い出しかないだろうに。
それなのに、
「別に構わねぇ」
と返ってきて田中は驚く。
「酷いことをしただろう!」
「そうだけどさ。謝ってくれたし」
なんて心の広い男なのだろうか。腕っ節もだが人としても勝てる気がしない。
「あの頃の俺は自分のことしか考えてなかったからさ」
喧嘩だって、葉月は一人、こちらは須々木と佐島がいたから負けないだろうと思っていた。
「え、いいんじゃねぇの。俺だって自分のことしか考えていないぞ」
それの何が悪いんだといわれて気が抜けた。
「あー、一緒に飯食っても?」
袋の中からパンを取り出すと、
「パンなのか。なぁ、これ食うか」
隣に置いてあった弁当を手に取りこちらへと差し出した。間違いなくこれは神野の分だろう。
「いや、食うわけにいかねぇよ」
食べてしまったらねちねちと文句をいわれるに違いないから。
「パンがあるから」
「それは神野が食うから。お前は弁当を食え」
弁当を渡そうと押してきて、それでも掌を向けて受け取らないでいたら、あることに気が付いた。
「もしかして拗ねているのか?」
すると葉月の肩が揺れた。どうやら正解のようだ。
「そうだよ。俺がいるのに」
葉月は神野がもてることにではなく、大切な友達を女子にとられたことに拗ねている。
「なんだよ。俺が一番の友達だってか?」
からかうようにいうと、
「違う。友達じゃなくて恋人」
「なんだって!!」
あまりの驚きに大きな声が出てしまう。
聞き間違いではないかと葉月をみるが肯定するように頷く。
葉月にとって田中は一番信用のならない相手ではないのか。それなのに平然と口にする。
「お前さ、自分でいうのはなんだけど、話す相手は選んだほうがいいぞ」
「いいふらしたりしねぇだろ?」
真っすぐとみつめてくる。いいふらさないと本当に信じているのか、そんな目をしていた。
「いわねぇけれどさ、人がよすぎるぜ」
相手が葉月だから、信じてもらえたことにたいしての喜びが大きい。
「まぁ、いいふらしたら殴るだけだけどな」
葉月の強さを知っているのでそれはごめんだ。絶対にいわないともう一度誓う。
「それにしてもお前らが付き合っているなんてなぁ。神野なんて女性に困らないだろうに」
「そう思うよな。しかも男同士だし」
好きになった理由が気になる。しかも同性という壁がある。それを乗り越えるには互いに勇気がいったのではないか。
「嫌われモンの俺なんかとって何度も思ったよ」
その気持ちは解る。橋沼は優しくて包容力のある人だ。きっと好意を寄せている女子だっているだろう。
それなのに田中のことを好きだといってくれるのだから。
「でもな、アイツは気にしねぇの。それに強引だし。押されて流されて……俺でいいのかって。今では何とも思わなくなった」
「そうか」
橋沼もそうだ。周りの目を気にしない。真っすぐに田中をみてくれる。
流されてしまえ、何があっても受け止めるから。そう両手を広げて待っていてくれる、そんな人だ。
抱きしめられれば温かくて落ち着けるし、本当はずっと居たいと思っている。
「なぁ、男同士だからとか思わなかったのか?」
「そうなんだよな。好きになった後に気が付いたぜ」
あっけらかんというものだから田中は呆気にとられた。
「おま、誰かにみられたらとか思わなかったのかよ」
「あん? 別にどう思われてもいい。だって俺はあいつが好きだし」
逆に気になるのかと聞かれて頷いた。
「男だから女だからと気にしていると大切なモンを失うからな。後悔してもおそいし」
葉月の指が田中の胸をトンと突く。
「なぁ、相手ってお前とつるんでいる大柄の先輩か」
「あぁ。すげぇ優しい人」
「お前さ、その人のこと好きなんだな」
顔に書いてあるといわれて、田中は両頬に手を当てた。
「あぁ、好きだよっ」
照れを隠すようにそういうと、葉月がニヤニヤと笑っている。
それの仕返しとばかりに、
「お前こそヤキモチを妬いて一人で食ってねぇで、神野に浮気をするなといってやれ」
そう口にすると、
「余計なお世話」
今度は葉月が照れた。
そこには唇へのキスも含まれていて、胸が煩いほど騒ぎ体が熱くなる。
しかも嫌だと思わない自分がいたりもするのだ。
好いてもらえることは嬉しいけれど、周りにばれた時のことを考えると怖い。
今日は昼に部活のミーティングがあるから、美術室が使えず昼も一緒にいられないと橋沼から連絡を受けていた。
それならたまには屋上にと袋を下げて向かったのだが、そこには先客がいた。
「あっ」
互いに声を上げてさすがに一緒にご飯というつもりはないので離れて座ろうとしたが、どうして葉月しかいないのかが気になった。
「なぁ、神野は」
つい声をかけてしまったが、
「女子につかまった。だから先にきて食べている」
普通に返してくれた。
「そうか。話しかけてわるかったな」
ここは葉月が停学になるきっかけを作った場所だ。しかも弁当を踏みつけてしまった。嫌な思い出しかないだろうに。
それなのに、
「別に構わねぇ」
と返ってきて田中は驚く。
「酷いことをしただろう!」
「そうだけどさ。謝ってくれたし」
なんて心の広い男なのだろうか。腕っ節もだが人としても勝てる気がしない。
「あの頃の俺は自分のことしか考えてなかったからさ」
喧嘩だって、葉月は一人、こちらは須々木と佐島がいたから負けないだろうと思っていた。
「え、いいんじゃねぇの。俺だって自分のことしか考えていないぞ」
それの何が悪いんだといわれて気が抜けた。
「あー、一緒に飯食っても?」
袋の中からパンを取り出すと、
「パンなのか。なぁ、これ食うか」
隣に置いてあった弁当を手に取りこちらへと差し出した。間違いなくこれは神野の分だろう。
「いや、食うわけにいかねぇよ」
食べてしまったらねちねちと文句をいわれるに違いないから。
「パンがあるから」
「それは神野が食うから。お前は弁当を食え」
弁当を渡そうと押してきて、それでも掌を向けて受け取らないでいたら、あることに気が付いた。
「もしかして拗ねているのか?」
すると葉月の肩が揺れた。どうやら正解のようだ。
「そうだよ。俺がいるのに」
葉月は神野がもてることにではなく、大切な友達を女子にとられたことに拗ねている。
「なんだよ。俺が一番の友達だってか?」
からかうようにいうと、
「違う。友達じゃなくて恋人」
「なんだって!!」
あまりの驚きに大きな声が出てしまう。
聞き間違いではないかと葉月をみるが肯定するように頷く。
葉月にとって田中は一番信用のならない相手ではないのか。それなのに平然と口にする。
「お前さ、自分でいうのはなんだけど、話す相手は選んだほうがいいぞ」
「いいふらしたりしねぇだろ?」
真っすぐとみつめてくる。いいふらさないと本当に信じているのか、そんな目をしていた。
「いわねぇけれどさ、人がよすぎるぜ」
相手が葉月だから、信じてもらえたことにたいしての喜びが大きい。
「まぁ、いいふらしたら殴るだけだけどな」
葉月の強さを知っているのでそれはごめんだ。絶対にいわないともう一度誓う。
「それにしてもお前らが付き合っているなんてなぁ。神野なんて女性に困らないだろうに」
「そう思うよな。しかも男同士だし」
好きになった理由が気になる。しかも同性という壁がある。それを乗り越えるには互いに勇気がいったのではないか。
「嫌われモンの俺なんかとって何度も思ったよ」
その気持ちは解る。橋沼は優しくて包容力のある人だ。きっと好意を寄せている女子だっているだろう。
それなのに田中のことを好きだといってくれるのだから。
「でもな、アイツは気にしねぇの。それに強引だし。押されて流されて……俺でいいのかって。今では何とも思わなくなった」
「そうか」
橋沼もそうだ。周りの目を気にしない。真っすぐに田中をみてくれる。
流されてしまえ、何があっても受け止めるから。そう両手を広げて待っていてくれる、そんな人だ。
抱きしめられれば温かくて落ち着けるし、本当はずっと居たいと思っている。
「なぁ、男同士だからとか思わなかったのか?」
「そうなんだよな。好きになった後に気が付いたぜ」
あっけらかんというものだから田中は呆気にとられた。
「おま、誰かにみられたらとか思わなかったのかよ」
「あん? 別にどう思われてもいい。だって俺はあいつが好きだし」
逆に気になるのかと聞かれて頷いた。
「男だから女だからと気にしていると大切なモンを失うからな。後悔してもおそいし」
葉月の指が田中の胸をトンと突く。
「なぁ、相手ってお前とつるんでいる大柄の先輩か」
「あぁ。すげぇ優しい人」
「お前さ、その人のこと好きなんだな」
顔に書いてあるといわれて、田中は両頬に手を当てた。
「あぁ、好きだよっ」
照れを隠すようにそういうと、葉月がニヤニヤと笑っている。
それの仕返しとばかりに、
「お前こそヤキモチを妬いて一人で食ってねぇで、神野に浮気をするなといってやれ」
そう口にすると、
「余計なお世話」
今度は葉月が照れた。